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002 俺に恋して孕ませたあいつ-02
「参考書持ってくるから待ってろ」
「わりい」
「上がる?」
「あー……いや、呼び出し」
「こんな受験真っ只中でも、恋愛のことしか頭にねえ奴いるんだな」
「みたいだね」
竜二は好みの容姿ならそれなりに遊んではいるみたいだけど、彼女は作らない。告白はその場でお断り。
そんな竜二と、不本意にも女顔で、よく竜二とつるんでる俺。俺が嫁、竜二が旦那ってからかわれるのも仕方ないっちゃあ仕方ないんだよな……。
たまに女の嫉妬の矛先が俺に向くのは勘弁してほしい。
「……気が変わった。俊の看病してやる」
「はあ? 俺、トイレとベッド往復するだけだぞ」
「いいのいいの。参考書借りるお礼」
「いらねー、呼び出しは」
「……あー、そうだった。終わったら来る」
「いいよ来なくて」
不敵な笑みで看病とか、面白がってんだって丸解りだ。
俺としては竜二にだけは妊娠を悟られたくない。実は女でもあるとか、オトコオンナ気色悪いとか思われたくない。
今まで通りの男友達として接したいんだ。今日はマズい。
けど……このまま、何ヵ月後かに腹が出たらバレてしまう。やっぱり相手が誰かもわかんねえし、堕ろすしかないんだろうな、怖いとか可哀想って気持ちだけじゃ産めない。
卒業式の後、竜二が県外の学校に行くはずだから……せめてあともう少し隠していられたら。
「俊? どうした」
「……どうもしない、腹痛いだけ」
「そっか」
んー、ヤったとしたら12月に忘年会やった時か? つか4回くらい忘年会やったんだけど、時期的にその辺りなら辻褄が合うかも。
最初の忘年会は長谷川の家で、酒飲んだ。この時が10人くらい。
2回目は、親が飲み会で居なかった奴の家で5人、酒は飲んだ。3回目は竜二んとこで4人、酒は飲まなかった。4回目のカラオケん時5人。
問題なのは、酒飲んだ日の記憶が曖昧ってこと。ってことはダチの誰かが相手……げっ。
「俊?」
「あ……悪い、ほらこれだろ」
「サンキュ。また後で来るからな」
「絶対面白がってるだろ、来んな」
今なら言える。ああ、本当に反省してる。未成年が飲酒とかふざけんな、絶対駄目。何やってたんだ俺達。法律で許してくれない行為だろ。
だから、尚更言えない。この時期に飲酒で停学? 悪い事だとは分かっていても、仲間巻き込むのにそんなの事言えるか。
だいたい、高校生で妊娠とか有り得ねえ。つか、身に覚えがねえのがもっと有り得ねえ。相手が友達とか本当に勘弁。
* * * * * * * * *
『忘年会ん時?』
「そうそう、何か俺忘れてる気がして」
『いや……片付けん時も何も忘れてなかったけど。最後何人泊まったっけ、5人? 誰か知ってるかもよ』
「そうだな……有難う、じゃあな」
竜二が帰った後、電話を掛けてクラスメイトにヒアリングを始めた。とりあえず長谷川じゃない、か。朝起きた時、長谷川と、泊まったのは竜二と、あと瀬戸と木村がいたから、流石に4人がかりは無いだろうな。
つか、長谷川は男が好きなんだけど、もう彼氏がいるからな。それで俺とやるとか絶対ない……ないよな?
瀬戸の家で忘年会やった時は……
『ああ、あの時? 酔い潰れて大変だった。何だっけ、靴下なら湯川くんに預けた』
「竜二に?」
『委員長をおぶって帰ってくれたじゃん』
「全然覚えてねえし」
『ええ……? 委員長酔って、一番先に結婚するのは誰かって話の時、湯川くん推しまくって大変だったんだし。俺は飲んでなかったけど、竜二はいい奴とか、俺達も知ってるよって』
「なんか、すげー恥ずかしいこと言ったのな、俺。それ以上は聞かないことにするわ」
『吐きに行く時は、だいぶ古賀っちに付き添ってもらったよね、覚えてる? 1時間くらい風呂場立て籠って。みんな酔ってたし、戻ってくるまで俺は湯川くんと長谷川くんの介抱してたから詳しくは聞いてないけど』
「古賀っち……分かった、何かの時に礼言っとく。ありがとな」
案の定俺酔い潰れて大変だったんだな。つか竜二何も言ってなかったじゃん。普通だったとか嘘つくなっての。
まあ俺は吐いた記憶すらないんだから、かなり飲んだんだろう。高校生でそれだけ酔ってるとこ見られたら停学だったな。それにしても風呂場に立て籠って……古賀っちと2人で1時間……まさか、ね。
竜二の家の時は酒も飲んでないし、記憶が曖昧になる理由もない。カラオケの時は、皆でオールして、朝方に帰ったのは覚えてる。
……この腹の子の父親は、古賀?
いや、古賀が悪い奴とか駄目とかそう言うんじゃ……いや、駄目なんだけど。
古賀はクラスで仲がいい奴の1人。別にイケメンって訳でもないけど、スポーツが得意で爽やか。軽いけど面倒見はいい。俺もよくつるんでるし、信頼してる。
竜二のもっと親しみやすい愛されキャラ版? と本人の知らないところで人気急上昇……って、男子校の中でじゃないぞ?
ん~、一体俺の体のことはどうやって知った? 俺の体のことといえば、掛かり付けの個人病院くらいにしか教えてないんだ。とりあえず、電話しないと。
「あ、古賀っち? 忘年会の時、俺……」
『忘年会? 俊が俺のズボンとかにも吐いて大変だったやつね、ほんとすげー大変だった』
「そ……か、悪かった。つか俺変なことしなかった?」
『いや十分変だった、ははっ、マジ覚えてねえのな』
「そ……うなんだけど、俺、き、キス魔とかそんなんじゃなかったよな? あれから誰もどうだったとか言ってくれねーし」
『キス魔! あはは! そうだったら張り倒すっつうの!』
「いや、吐き散らかしただけなら、俺はちょっとホッとした」
『はあ? 結構な迷惑だったっつうの。まあ俺も酔ってたからそんな鮮明に覚えてないけど』
「え? 覚えてない?」
『曖昧っちゃあ曖昧、俺も結構騒いでたとか後で聞いたし』
「そっか、本当悪かった、んじゃ」
『お前当分禁酒な、面倒だから。つか腹治せよ、二次あんだから』
「サンキュー」
ふ、普通だ……。いや、酒を高校生が飲んでるって言う意味では普通ではないんだけど、これで古賀が俺とヤッたの隠してるなら本物の詐欺師になれるぞ。
元々この時期に『お姉さんお姉さん』って年上の彼女作るのに必死な奴だし、ナンパというよりは彼女持ちになりたいという意味で、本人曰く、ヤッてサヨウナラってことじゃないらしい。
だから、酔い潰れたとしても男の俺を抱くと思えないんだよなあ、そもそも。
ダチの線は全部潰した。ヤベー、俺、自分で自分妊娠させちゃった? んなまさか。そんなことが出来るはずもない。誰か相手がいるんだよ、絶対。
もし、俺の腹の子の父親が誰か分かったら、俺そいつとどうするんだろう。周りは何て言うんだろう。
親も、古賀も竜二も、俺のこと変わらずに見てくれるんだろうか。
怖い。人知れず妊娠してる自分が恐ろしくなった。バレたくない。
けど、バレたくなくても誰の子か判らなくても、堕ろしたいかと言われるとあまり乗り気じゃない。
腹の膨らみはいつまで隠せるんだろう。
そう思って、俺は気付けば受験勉強もしないでネットを調べていた。
* * * * * * * * *
「何も食えない?」
「あー、食べ物の匂いだけで吐ける」
「……ちゃんと飯食ってる? 最近痩せてない?」
「まあちょっと長引いてるもんな……ちょっとは落ちたかも……って、何で笑うんだよ」
結局夜になって、竜二は女をフッた足で俺の看病に来た。別にそいつと付き合うようになった訳でもないのに、竜二が時々ニヤニヤとするのは何なんだろ。
「いや?ちょっとね」
「俺見て笑うな。何か俺に関係あることだろ、俺が弱った姿が面白くて来たんなら早く帰れ」
「はあ? ははっ、違うし」
「明らかに面白がってるっつうか顔嬉しがってるだろ。もう二次試験来週なんだぞ」
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