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003 俺に恋して孕ませたあいつ-03

 竜二には名言が幾つかある。竜二は好意をあからさまに向けてくる人に厳しいから。  ・女は勝手に好きになってくる癖に、その勝手に応じないと泣く。  ・何かしてもらうのを常に期待してるの丸分かりで重い。  ・なんか相手するのが面倒臭い。  酷いよな。  その顔俺に寄越せ勿体無い! と猛批判を仲間内から浴びせられる竜二が、告白断って恐らく粘られたであろう後に機嫌がいいって、ちょっと変なんだよな。  この近所の公園だったにしては時間もかかってる。制服のままだし。 「俺はもういいから帰れ。お前制服のままじゃんか」 「良くねえだろ。家の人帰ってくるまで待ってる、わざわざ私服で来るかっつうの」 「……好きにしろ」  分からん。俺が何で腹痛いと言ってんのか知ったら驚くんだろうな。はぁ、ホントどうしよう。こうしてる間にも俺の腹では赤ん坊が育ってる。  相手がいない……って、そんな事あるわけないよな。  古賀じゃなかったら……竜二は瀬戸ん家の時を覚えてるんだろうか。 「あの、さ」 「ん?」 「忘年会のこと覚えてるか?」 「ああ、覚えてる。ってどの時?」 「瀬戸ん家で飲んだ時」 「ああ、覚えてる。俊がぶっ潰れた時ね」 「俺さ、全く記憶が無くて、竜二は普通だったとか嘘ついてたじゃんか、古賀っちに迷惑かなりかけたらしくて」 「本当に覚えて……え、マジで覚えてないの?」 「もう2ヶ月経つけど全然。俺さ、古賀っちと何かあったりしてないよな? 吐いてかなり迷惑かけたみたいだし」  あー、もう古賀が相手でも驚かない、確証に変わるだけだから。竜二も酔って瀬戸に介抱されてたんだから、知ってるか分かんないってのが心配なだけ。  竜二の顔が曇る……ああ綺麗な顔って歪むと怖いよな。つうことはやっぱり何かあったんじゃん。  風呂場でヤったんだ、絶対ヤッた。だって身体中重かった気がする。二日酔いのせいだけじゃなかったんだ。そうだ、もう何かヤっちゃったようなそんな覚えがあるもん。  古賀に妊娠した……ってどう伝えよう。俺の体を見たはずだ、俺が女の体持ってるの分かってるなら驚きは幾分減るよな? 今まで普通に接してるのは……なんで?  ああ、まさか1回やったくらいで妊娠したとは思わないか。 「俊は、知らないままでいたくないんだよね?」 「いや、もう皆まで言わずとも察した、とりあえず竜二は関係ないから、親帰って来そうだし帰って。ちょっと古賀に用事がある」  いっそ頭テンパってるうちに告げてしまいたい。アクシデント、そう、これは事故なんだ。だから古賀に責任取らせるとかそんなつもりはない。  ただあいつの子なら、今後どうするかも含めて告げてないと。  妊娠して、腹に抱えてるのは俺。だけど孕ませたのは古賀。俺だけで作ったんじゃねーんだ。脳みそパンクしそうだ。つか、竜二の奴、距離が近い。 「古賀に用事? 告白断った事を思い出したとでも言うつもり?」  ん? 「こ……はぁ!?」  え?告白断った?  告白断った!?  え、何、告白断った!?  じゃあ何、こ、古賀が告白したのを断ったのに無理矢理されて出来ちゃったわけ!?   てか、俺は断ったんだな!?   じゃ、つまり……どういうことだ? それ責任問題じゃん? あれ? 俺に告白? 男だぞ、なんで? 「ちょっと待って、告白されたの? 俺が、古賀っちに?」 「そうだよ、それの件じゃないの? 用事って」 「いや、そ……れ以上というか。つか、古賀っち毎日、オンナオンナって言ってなかったっけ!? 酔ってた俺を騙してるのか?」 「古賀も覚えてないなんて言われたら凹むだろうね。あいつが女の話してたのは、俊のこと好きになった自分の気を紛らせるためだよ。顔も性格も好き、男でも好きで仕方がないって相談受けてた」 「そ、んなの知らねえし」  古賀が俺に恋愛感情を持ってたとか全然知らなかった。彼女作りに躍起になってるのは、俺を忘れるために……?  で、断られて押し倒してヤっちゃうとか全然駄目じゃん! 「あの日さ、酔った古賀に、俊が好きって気持ちが収まらない、どうしたら……って言われたんだ。だから俺は酔ったことにして部屋に残って、古賀に俊を看させた。告白してこいって」 「なに背中押してんだよ馬鹿!」 「そりゃ押すだろ! アイツはダチだ、それを……俺が止めてくれなんて言えねえよ」 「……」  ああ、そうだ。こいつはこういう奴。友達には優しい奴なんだよ。 「俺のことも、覚えてないんだよな」 「竜二が俺をおぶって帰ってくれたのは聞いた」 「古賀に、何を言うつもりだった?」 「……それは」  妊娠したと言うつもりだったけど、竜二の前で言うのは嫌だ。てか、なんでそんなニッコニコなんだよ。ちょっと待て、俺を後ろから抱きしめるな! 「ねえ、もう分かってるから、言ってよ」 「!? ……竜二、お前」  まさか、俺の体のこと知ってたのか? 「俊、妊娠してるよな。父親は俺だろ? 今日はちゃんと責任取るつもりで来たんだ。そうじゃないかな、ああ、やっぱそうだよなって、ずっとウキウキして待ってたんだけど」 「………え?」  竜二が、腹の子の父親?  竜二が、俺を抱いたのか? 「竜二、えっ、何で……」 「何でって、最近気分悪そうだし、ヤってしばらく経って腹さすってたら腹に子供いるって思うだろ。いつ子供出来たって言ってくれるんだろうって待ってたんだけど」 「じゃなくて、何それ、俺と……竜二が?」 「あれ? えっと、まさか、そこから覚えてない……? ちょっと待って、だって好きだよって、俺と一晩中ヤったじゃん! 俺が父親だって分かってなかったのか? も、もしかして他に相手がいるのか?」  え? 嘘だろ、覚えてない……何だこの展開。このところずっと上機嫌だったのはこのせいだったのか? 「な、何で次の日に言わねえの」  何も知らない顔してずっと傍に居たなんて。俺の体も知ってたし、俺の妊娠も察してたなんて。  つか俺のことが好き? で、ヤっちゃって……はっ、何だそれ。 「俊が今までと同じ態度だったし、何も言わなかったから。流石に抱いた、抱かれたなんて話題は気まずいかなって。俺は周りにバレてもいいって思ってたけど」 「そんな、だって俺何があったか聞いたよな? お前、普通だったって言ったよな」 「だから、俊がそこに触れないようにしてると思ってたんだよ。酒の勢いだったから忘れてくれとか。それで友達やめるとか言われたら立ち直れない」  嫌われたくなかったから? なんだこれ、竜二ってこんな奴だったっけ、え、ちょっと待って。俺のこと全然考えてねえじゃん。  えっと、これ、俺が悪いんだっけ。妊娠したって、俺から言わないといけないんだっけ。どうしたらいいんだ、どうしたらよかったんだ。 「俺、ちゃんと好きって伝えたよね。1晩とはいえ結構ヤったし、年明けから見ててこれ子供出来てるな、いつ俺に教えてくれるんだろうって、俺責任取るつもりで」 「……で? 俺が何も言わないから妊娠させといて名乗り出もしねえで、俺がお前に何か言うまで、勝手に産むか勝手に堕ろすか見てるつもりだったんだよな」 「堕ろす!? そんなことしないだろ? だって、俺と俊の子だぞ?」  なんだよこいつ、怖いわ。俺の妊娠に気づいていて、俺が言うまで待ってただって? 年明けから何週間経ってるよ。  一番の友達だと思ってたけど、これはないわ。もう竜二に襲われて妊娠したとかこの際どうでもいい。俺が子供出来たのも、自分が父親なのも自覚しておきながら、そんな無責任なのってねぇよ。  覚えてない俺も悪い。だけど無理。ちょっと頭の整理が追いつかない。

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