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004 俺に恋して孕ませたあいつ-04

「とりあえず、出てってくれねえ?」 「俊?」 「お前も知ってるだろうけど、俺悪阻できついの。『ただのクラスメイト』と話してる場合じゃねえから」 「ちょっと待ってくれ! 俊、説明させてよ、まさか俊が覚えてないなんて思ってなかったんだ! これからちゃんと支えるし、何でもするから」 「勝手に好きになって、勝手に抱いて……俺に何求めてんの? 悪阻で弱ってる俺を見てるだけで、言ってくれるまで待ってただと? お前、女にいつも言ってるのと同じこと、俺に言われないと思った?」 「……勝手に好きにって、俺達そんな、だって」 「ちょっと俺1人になりたい」  竜二が俺を抱いた? 酒でぶっ飛んでる間に、俺を?   俺に好きって言った? 俺は……その時何て言ったんだ?  * * * * * * * * * 「委員長、お前最近やばくね? 大学受かったんだしもう卒業式まで1週間ないんだぜ、休めよ」 「後期試験にまわるならともかく、委員長は来る必要ねえじゃん。卒業式の練習とかもう覚えただろ」 「こんな弱ったチンパンを出席させたら動物虐待で訴えられるわ」 「うるせー、うちの親は厳しいんだよ」 「すげー痩せたぞ? 元々痩せてたのに何か危なくね?」 「いや、ほんとマジで何の病気? 癌とか言わないよな」  先週は学校を休んだ。どうせ自習だし。  親には妊娠したことを告げた。飯の度の吐き気とか流石に隠せないし、飯作ってくれる母親に申し訳なくて。1人息子として、男として俺を育ててきたつもりの両親は、ショックを隠さなかった。  相手が誰だか分からないと言うと、父親は相手を捜し出して八つ裂きにすると恐い形相で俺に宣言し、母親は俺を不憫に思うあまり、寝込んでしまった。  竜二からは、あの出ていけと言った次の日から、1日数十回の電話がかかってくるようになり、メールも大量に来るようになった。許してくれ、責任を取る……なんて内容。一昨日いい加減にしんどくなったから着信拒否した。  そしたら昨日の朝はポストに手紙。今日も入ってた。幸い学校には来てないみたいだから助かる。 「保健室行ってこい、つか帰れば?」 「ああ、帰っていいと思うぜ」 「……じゃあ落ち着いたら帰る、ありがとな」  俺に告白してきたという古賀は、潔く諦めたらしい。友達に徹してくれてる本心はわかんねえけど、それはそれ、と割りきってくれてるのは有難い。 「古賀っち家の途中じゃん、委員長ん家まで送ってやれば?」 「え? そりゃ旦那に怒られるだろ」 「いいじゃん、あいつ来てねえし、旦那の称号剥奪」 「んー、じゃあもうちょい待って」 「福森、送って貰えよ。お前ぜってー今ならおっさんに襲われる、ヤバいから」 「古賀っち、ごめんな。……んあ、電話きた」 「誰から?」 「親。あー悪い、もしもし?」  スマホが震えたから確認をしてみると、着信は母親から。俺が学校行ってる間にかかってきたことなんか今まで無かったけど。 『あんた、今うちに湯川さんが来てるんだけど』 「湯川さん……え? 竜二のこと?」 『お父さんとお母さん! 竜二君が居なくなったって、行方知らないかって』 「え、なに、行方不明?」  母親の話だと、竜二のお母さんが竜二を起こしに部屋まで行ったら、竜二はいなかったらしい。早くに学校に行ったのかと思ってたら、さっき担任の山下先生(ヤマセン)から、竜二の欠席の連絡がないという電話があって。  もう一度竜二の部屋に戻ったら……。 『あんたに、取り返しのつかないことをしてしまったって、置き手紙が』 「……竜二」 『もしかしてあんたの子供、竜二君が父親なんじゃない?』 「……」 『知ってたんでしょ』 「俺は竜二と、その……、やった覚えが全然ないんだけど、竜二はそうだって言ってた」 『やっぱりそうなのね。湯川さん達、具体的なことは知らないまま、あんたを心配してうちに謝りに来てくれたのよ、竜二君捜す前に。とりあえず早退して帰ってきなさい』 「分かった……、うん」  竜二が失踪。俺が許さないって態度をとったから……でも俺にだって言い分はある。覚えてないからって、妊娠を放置されるとか無いじゃん。 「竜二が家出したって。俺帰る」 「はぁ!?」 「いや、決まった訳じゃない、竜二の親がウチに来てるらしいから帰らないと」 「俊! 送るから、チャリ後ろ乗せてやる。みんな悪い、俺トイレ行ってることにしといて」  古賀が急いで鞄をまとめ、チャリの鍵を俺に揺らして見せる。 「糞の方?」 「そんなのどっちでもいいだろうが」 「つか俺らも竜二に連絡するわ、山下センセにみんなで捜すって言おうぜ」 「おう!」 「……有難う」 「ちょい就職組と合格組みんな手伝って! 竜二が失踪って」 「「はぁっ!?」」  クラス内の全員の声が揃う。 「何、シッソーって」 「行方不明! ヤマセンにみんな捜しに行くって言うから、手伝って!」 「は!? マジか!」 「りゅーじちゃん? おりこうだから出てきなさい」 「あんなデカいのがゴミ箱隠れられる訳ねえじゃん」  ああ、大変なことになった。竜二はクラスでも慕われてるし、こんな風にみんなで捜そうって話が出る程の人気者だ。  あいつ、ずっと後悔してたんだろうか。  別に竜二に孕ませられたことに怒ってるんじゃない。友達なのに、セックスしたのに、妊娠に気づいてるのに、俺に何も言わなかったことに腹が立ったんだよ。  どうしたいんだろうか。許せないと思ってたし、二度と馴れ合わないつもりで着信拒否した。  でも……それで解決したものは何も無い。 「俊、行くぞ」 「ちょっと待って」  『竜二に、実はあの時……と自分から切りだして貰う』ってことはもうどうしようもない。  そもそも、俺は竜二が体を求めて来た時に拒んだのかも分からない。俺を勝手に好きになった竜二を、俺は拒否する前に受け入れたのかもしれない。竜二の口ぶりでは、そんな気もしていた。  俺が男として生きる時、竜二は一番の友達だった。じゃあ、俺が女として生きる時、竜二は俺の……何?  俺のことが好きな竜二。格好いいし、優しい。面白いし頭もいい。好きって気持ちを隠していてくれたのは、俺に知られてホモ扱いされて友達をやめたくなかったから。  俺、そういう竜二でも別に嫌わなかった。  俺が自分の特別な性別を気にして、竜二や古賀の俺を好きだって素振りを許さない雰囲気を出してたんだろうか。  竜二や古賀に、隠し事をしてたのは……  俺じゃないか。 「俊、行くぞ」 「悪い、みんな聞いて」 「ちょいヤマセン呼ぶ」 「その前に、俺と竜二のこと、話しとかないと」 「俊、竜二とのことって」  俺もきっと、竜二の事をぶん殴ってまで拒否しなかった。体に無理矢理されたような形跡もなかった。古賀を断れて竜二を断れなかったのは……どこかで竜二ならって気持ちがあったから?  最初から許すつもりだったんじゃないのか。好きかどうかなんて、今まで考えた事はなかった。いや、女の体を持つ俺は、男であり続けるためにも……男でありたかったから……  竜二の事を意地でも好きになっちゃいけなかった。今までは。 「竜二が失踪したの、俺のせいなんだ」 「は? 喧嘩?」 「夫婦喧嘩か」 「あー、なるほどねー」 「あーなるってヤラシイな」 「黙れ馬鹿、んで?」 「俺、酔ってて全然覚えてないんだけど、……竜二と寝ちゃったっぽい」 「え、竜二と?」 「マジで?」 「ああ、んで、俺覚えてないけど竜二は気にしてたみたいで」  上手く言えないけど、もっと肝心なことがあるんだ、どう言えばいいんだろうか。  愛だの恋だのじゃなくても、何かを告白するって勇気、今さらすげーって思う。  クラスの初日にゲイである事をカミングアウトした長谷川、中学時代にいじめで引きこもっていた事を告白した瀬戸。  支えてくれる何かがなけりゃやってらんない。

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