5 / 32
005 俺に恋して孕ませたあいつ-05
「俊、顔色真っ青、大丈夫か? 無理すんな。だいたい分かったから」
「……竜二とは、それを言ってくれなかったのが原因で喧嘩してるんだけど、その……竜二、俺のことが好きで、えっと……。俺が、今から言うこと聞いても……驚いたり変な目で見ないで欲しい」
「あー、いいからはよ!」
「何でも言っとけ! 人殺したとか犯罪した訳じゃないんだろ?」
犯罪じゃない……いや、未成年の飲酒も、ヤっちゃったのも、どっちもアウトなんだけどさ。
「……俺さ、両性具有ってやつで」
「寮生? ぐゆー?」
「あー、あー分かる、男で生理来たりするやつ」
「生理!? だから俊可愛いのか!」
「可愛いは正義、何でも許せる」
「あー、なる」
「今アナル言うな」
「言ってねえよお前がアナルのことで頭一杯なだけだろ!」
「うるせー童貞!」
クラスの皆に奇異の目が無いとは言えないけど、特別気にされてもいないらしい。きっと、これからも女顔、可愛いというワードで弄られるのは変わらない、ただそれだけに思える。
「あー、えっと一応男なんだろ? つか言われても全然わかんねえ」
「……俺、子宮とかきちんと揃ってて、多分男の機能の方がダメっぽくて」
「ハイブリッド!」
「やべえ、何それ、なんかすげえ……あれ? 委員長男ってことでいいんだよな?」
……今まで怪物みたいな扱いされるのが怖くて言えなかった。けど、気にもしないような発言が飛び交う。特別視してたのは自分だけだったんだろうか。
「……変とか、思わないのか?」
反応を聞くのは、実は怖い。でも、聞かずにはいられない。
「いーじゃん、俺とかチンコ糞小せーし」
「仕方ないもんだし、俺ら……何か事情あったからって、今さら変な目で見れねえよ」
「竜二はデカくて悩んでたぞ」
「マジか!」
「うち、一番上の姉ちゃんが不妊治療? 受けたとか言ってた。旦那の方もちょっと精子少ないとか。そういう悩みってみんなあるんじゃね?」
「だよなー、そういうデリケートなとこまで人付き合い考えてたら、マジ人選びすぎて友達とか作るの無理」
「お前友達いたのか!」
「え~裕ちゃんそれ傷ついたわ、俺の友達だと認める裁判しよ?」
騒がしいのはいつもと同じ。何も変わらない。
どうして俺は隠していたんだっけ。
真剣に悩んで、男であることに固執して。その部分を知らない人からは、ちゃんと男だって見て貰えていたんだ。
そして体のことを知られてからも、男として不能でも、男として、友達として見てくれたんだ。
「……有難う」
「やばい、学級一のチンパンがしおらしくて鳥肌立つんですけど」
「チンパンのくせに鳥肌とかハイブリッド気取んな、鳥に謝れ」
「んで、竜二が行方不明ってのは喧嘩が原因? 俊の体のこと関係なくね?」
「竜二と寝たんなら関係あるだろ」
「あ、そっか、つか委員長が覚えてなくて竜二が気にしてる……のが原因?」
そうだ、もう一つ隠していたことがあったんだ。
「……俺、その……妊娠しちゃったんだ」
「「はあっ!?」」
「腹、子供いんの? 竜二の子?」
「……ああ」
「おおー! すげー!!」
「あ、分かった、子供出来たのどうしようかって喧嘩か!」
話をしてると、段々自分の考えが整理されるってあるよな。しゃべってたら、段々自分が何かちゃんと対処できることをしなかっただけの、くだらない理由で竜二を拒否ったように思えてきた。
いや、実際そうだと思う。
冷静になれば、俺はちゃんと竜二と話し合うべきだったって分かる。
「竜二、俺とヤったの覚えてるし、俺が悪阻なの気付いてて……なのに父親として名乗り出てくんなくて……」
「だから竜二機嫌良かったのか。フラれた知り合いの女の子、いつも糞冷たいフリ方で有名なのに優しかったとか言ってた」
「俊が黙ってて、言いだせなかったんじゃないか?」
「……うん」
「俊、産むよな?」
「えっ」
「俺、お前と竜二の子供堕ろすとか聞くの、正直嫌だ」
「堕ろすなよ! 竜二が泣く!」
「俺も泣く!」
「いやいや俺も泣く」
「どうぞどうぞ」
なんだろうな。3年間全力でチンパンジーだった俺達だけど、色々あってそれぞれを認め合って、こうやって最後の最後でも励ましてくれる。ほんと、いいクラスメイトに出会えた。
俺を認めていないのは、俺だけだったんだ。
「……有難う、俺も、産んでやりたい」
「「イエーイ!」」
「ウキー! ウホッ、ウホホ、ウキー!」
「チンパン語やめてくださーい、チンパン菌がお腹の子に感染しますぅー」
「委員長が既にチンパンなんだからいいんですぅー」
「竜二捜そうぜ!」
「おっしゃ捜そう!」
「竜二と一緒になるんだろ?」
「泣くなー!」
「泣いたぁぁー!」
産みたい。そう言った途端、竜二に会いたくなった。覚えていない竜二の抱擁とか凄く欲しい。今は竜二で心を満たされたい。
周りはそれを応援してくれる。男が子供産むとか、男同士で付き合う、ヤるなんて気持ちが悪い。自分が一番そんな思いを持っていたんだと思う。
「泣いて……ねえ、だって、やっぱ俺すげー不安だったし……」
「お前抱え込み過ぎ。頼れもうちょっと」
「古賀ぁ、自転車飛ばすなよ!」
「分かってる! 行くぞ」
「……悪い」
「おめでとー!」
「お幸せにぃー!」
まだ竜二見つかってからの話だろ、と言い返したかったけど、自分の震えた声じゃ格好もつかなくて、俺は教室を出ながら拳を高く掲げて応えた。
* * * * * * * * *
「俊が竜二のもん……か。まあ口は挟めないにしても、ようやくって感じか」
「……何だよその知ったような」
「知ってたからね。竜二が俊を見てる目が違ってた。俺と同じか……って分かった。あいつが告白しないって言うからさ、俺、俊に気持ち伝えるって宣言したわけ」
「そうだったのか」
「断られて諦めるつもりだったから気にすんなよ? つかまさか竜二が俺に続いたとはね。遠慮してたのか、多分」
今更だけど、古賀と竜二の間では、緩い不可侵協定のようなものがあったらしい。
男子校だし、一時の気の迷いとかで片付けたくないし、男だからって理由で俺を捨てるなんて問題外だから、と。
だって2人とも恋愛対象は女だったからね。
卒業して周りに女がいても俺を選ぶ気持ちに変わりがなければ……なんだよ決闘って。小学生か。
「竜二になら俊をやってもいいと思ってる。ああ、あいつがウチの高校来た理由、訊いたら笑うぜ?」
「は?」
「いやいや、本人から聞け。とにかく、お前らが一緒になっても変わらずつるんでくれよな」
「勿論。保育士目指す友人は手放せねえから」
「……竜二見つかったら、つか見つけるけど、アイツの想いとか聞いてやってな? 仕方ないからとか後に引けないからとかじゃなくて」
「……今は俺、竜二を許そうって決めてる。ダチならちゃんとケジメつけた付き合いしないと。俺、竜二避けてるだけだった。話し合うよ」
「俺のダチでもあんだからな」
「分かってる。ちゃんと仲直りするから。つかあいつ父親だからな、なんか笑えてくる」
古賀と俺の2人とも竜二とは親友。恋人としての関係を拒否したからと言って、友達って立場も拒否した訳じゃない。
気にしない訳ないだろうけど友達でいてくれた。こいつは気まずさを一切作らなかった。失恋や恋敵なんて立場じゃなく、俺と竜二を支えようとしてくれる、やっぱりいい奴だ。
男である事に限界は感じていたけれど、古賀の告白に仕方ないと頷いて、惰性で付き合う関係にならなくて本当に良かった。
「有難う、じゃあな」
「おう。俺このまま竜二捜すから」
「ごめん」
「それは竜二に言わせるわ、んじゃ」
自転車の後ろから降り、古賀と別れて家に戻る。見慣れない靴は多分竜二の親のだ。
「ただいま」
「俊!」
「おじさん達は?」
「リビングよ」
「……分かった」
母親の表情は、竜二の親父さん達への怒りではなく、むしろ心配してるようだった。うちの親父には連絡したらしく、暫く無言が続いた後、竜二君だったかと、力無く呟いたんだと。
ともだちにシェアしよう!