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005 俺に恋して孕ませたあいつ-05

「俊、顔色真っ青、大丈夫か? 無理すんな。だいたい分かったから」 「……竜二とは、それを言ってくれなかったのが原因で喧嘩してるんだけど、その……竜二、俺のことが好きで、えっと……。俺が、今から言うこと聞いても……驚いたり変な目で見ないで欲しい」 「あー、いいからはよ!」 「何でも言っとけ! 人殺したとか犯罪した訳じゃないんだろ?」  犯罪じゃない……いや、未成年の飲酒も、ヤっちゃったのも、どっちもアウトなんだけどさ。 「……俺さ、両性具有ってやつで」 「寮生? ぐゆー?」 「あー、あー分かる、男で生理来たりするやつ」 「生理!? だから俊可愛いのか!」 「可愛いは正義、何でも許せる」 「あー、なる」 「今アナル言うな」 「言ってねえよお前がアナルのことで頭一杯なだけだろ!」 「うるせー童貞!」  クラスの皆に奇異の目が無いとは言えないけど、特別気にされてもいないらしい。きっと、これからも女顔、可愛いというワードで弄られるのは変わらない、ただそれだけに思える。 「あー、えっと一応男なんだろ? つか言われても全然わかんねえ」 「……俺、子宮とかきちんと揃ってて、多分男の機能の方がダメっぽくて」 「ハイブリッド!」 「やべえ、何それ、なんかすげえ……あれ? 委員長男ってことでいいんだよな?」  ……今まで怪物みたいな扱いされるのが怖くて言えなかった。けど、気にもしないような発言が飛び交う。特別視してたのは自分だけだったんだろうか。 「……変とか、思わないのか?」  反応を聞くのは、実は怖い。でも、聞かずにはいられない。 「いーじゃん、俺とかチンコ糞小せーし」 「仕方ないもんだし、俺ら……何か事情あったからって、今さら変な目で見れねえよ」 「竜二はデカくて悩んでたぞ」 「マジか!」 「うち、一番上の姉ちゃんが不妊治療? 受けたとか言ってた。旦那の方もちょっと精子少ないとか。そういう悩みってみんなあるんじゃね?」 「だよなー、そういうデリケートなとこまで人付き合い考えてたら、マジ人選びすぎて友達とか作るの無理」 「お前友達いたのか!」 「え~裕ちゃんそれ傷ついたわ、俺の友達だと認める裁判しよ?」  騒がしいのはいつもと同じ。何も変わらない。  どうして俺は隠していたんだっけ。  真剣に悩んで、男であることに固執して。その部分を知らない人からは、ちゃんと男だって見て貰えていたんだ。  そして体のことを知られてからも、男として不能でも、男として、友達として見てくれたんだ。 「……有難う」 「やばい、学級一のチンパンがしおらしくて鳥肌立つんですけど」 「チンパンのくせに鳥肌とかハイブリッド気取んな、鳥に謝れ」 「んで、竜二が行方不明ってのは喧嘩が原因? 俊の体のこと関係なくね?」 「竜二と寝たんなら関係あるだろ」 「あ、そっか、つか委員長が覚えてなくて竜二が気にしてる……のが原因?」  そうだ、もう一つ隠していたことがあったんだ。 「……俺、その……妊娠しちゃったんだ」 「「はあっ!?」」 「腹、子供いんの? 竜二の子?」 「……ああ」 「おおー! すげー!!」 「あ、分かった、子供出来たのどうしようかって喧嘩か!」  話をしてると、段々自分の考えが整理されるってあるよな。しゃべってたら、段々自分が何かちゃんと対処できることをしなかっただけの、くだらない理由で竜二を拒否ったように思えてきた。  いや、実際そうだと思う。  冷静になれば、俺はちゃんと竜二と話し合うべきだったって分かる。 「竜二、俺とヤったの覚えてるし、俺が悪阻なの気付いてて……なのに父親として名乗り出てくんなくて……」 「だから竜二機嫌良かったのか。フラれた知り合いの女の子、いつも糞冷たいフリ方で有名なのに優しかったとか言ってた」 「俊が黙ってて、言いだせなかったんじゃないか?」 「……うん」 「俊、産むよな?」 「えっ」 「俺、お前と竜二の子供堕ろすとか聞くの、正直嫌だ」 「堕ろすなよ! 竜二が泣く!」 「俺も泣く!」 「いやいや俺も泣く」 「どうぞどうぞ」  なんだろうな。3年間全力でチンパンジーだった俺達だけど、色々あってそれぞれを認め合って、こうやって最後の最後でも励ましてくれる。ほんと、いいクラスメイトに出会えた。  俺を認めていないのは、俺だけだったんだ。 「……有難う、俺も、産んでやりたい」 「「イエーイ!」」 「ウキー! ウホッ、ウホホ、ウキー!」 「チンパン語やめてくださーい、チンパン菌がお腹の子に感染しますぅー」 「委員長が既にチンパンなんだからいいんですぅー」 「竜二捜そうぜ!」 「おっしゃ捜そう!」 「竜二と一緒になるんだろ?」 「泣くなー!」 「泣いたぁぁー!」  産みたい。そう言った途端、竜二に会いたくなった。覚えていない竜二の抱擁とか凄く欲しい。今は竜二で心を満たされたい。  周りはそれを応援してくれる。男が子供産むとか、男同士で付き合う、ヤるなんて気持ちが悪い。自分が一番そんな思いを持っていたんだと思う。 「泣いて……ねえ、だって、やっぱ俺すげー不安だったし……」 「お前抱え込み過ぎ。頼れもうちょっと」 「古賀ぁ、自転車飛ばすなよ!」 「分かってる! 行くぞ」 「……悪い」 「おめでとー!」 「お幸せにぃー!」  まだ竜二見つかってからの話だろ、と言い返したかったけど、自分の震えた声じゃ格好もつかなくて、俺は教室を出ながら拳を高く掲げて応えた。  * * * * * * * * * 「俊が竜二のもん……か。まあ口は挟めないにしても、ようやくって感じか」 「……何だよその知ったような」 「知ってたからね。竜二が俊を見てる目が違ってた。俺と同じか……って分かった。あいつが告白しないって言うからさ、俺、俊に気持ち伝えるって宣言したわけ」 「そうだったのか」 「断られて諦めるつもりだったから気にすんなよ? つかまさか竜二が俺に続いたとはね。遠慮してたのか、多分」  今更だけど、古賀と竜二の間では、緩い不可侵協定のようなものがあったらしい。  男子校だし、一時の気の迷いとかで片付けたくないし、男だからって理由で俺を捨てるなんて問題外だから、と。  だって2人とも恋愛対象は女だったからね。  卒業して周りに女がいても俺を選ぶ気持ちに変わりがなければ……なんだよ決闘って。小学生か。 「竜二になら俊をやってもいいと思ってる。ああ、あいつがウチの高校来た理由、訊いたら笑うぜ?」 「は?」 「いやいや、本人から聞け。とにかく、お前らが一緒になっても変わらずつるんでくれよな」 「勿論。保育士目指す友人は手放せねえから」 「……竜二見つかったら、つか見つけるけど、アイツの想いとか聞いてやってな? 仕方ないからとか後に引けないからとかじゃなくて」 「……今は俺、竜二を許そうって決めてる。ダチならちゃんとケジメつけた付き合いしないと。俺、竜二避けてるだけだった。話し合うよ」 「俺のダチでもあんだからな」 「分かってる。ちゃんと仲直りするから。つかあいつ父親だからな、なんか笑えてくる」  古賀と俺の2人とも竜二とは親友。恋人としての関係を拒否したからと言って、友達って立場も拒否した訳じゃない。  気にしない訳ないだろうけど友達でいてくれた。こいつは気まずさを一切作らなかった。失恋や恋敵なんて立場じゃなく、俺と竜二を支えようとしてくれる、やっぱりいい奴だ。  男である事に限界は感じていたけれど、古賀の告白に仕方ないと頷いて、惰性で付き合う関係にならなくて本当に良かった。 「有難う、じゃあな」 「おう。俺このまま竜二捜すから」 「ごめん」 「それは竜二に言わせるわ、んじゃ」  自転車の後ろから降り、古賀と別れて家に戻る。見慣れない靴は多分竜二の親のだ。 「ただいま」 「俊!」 「おじさん達は?」 「リビングよ」 「……分かった」  母親の表情は、竜二の親父さん達への怒りではなく、むしろ心配してるようだった。うちの親父には連絡したらしく、暫く無言が続いた後、竜二君だったかと、力無く呟いたんだと。

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