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006 俺に恋して孕ませたあいつ-06

「俊くん!」 「おじさん、おばさん……」 「もう何と謝ったらいいのか……まさか竜二が俊君をその、に、妊娠させていたなんて。本当にごめんなさい」 「竜二が俊君を一番大切な友達だと思っていたのは分かっていたけれど、まさか友達以上のことを俊君に求めていたなんて」  予想通りだ、俺に謝りに来たみたい。息子が高校在学中に相手を妊娠させた、しかも……高校生にあるまじき酔った勢いで、同級生の男を。  そりゃあ普通に考えて頭下げにくるだろう。  けど、もうその件については俺の中でさっき終わったこと。言わなかった竜二を責める道理はあるにしても、竜二の言い分を殆んど聞いてない俺が、今の状況を作ったんだ。 「いや、俺もその時拒まなかったかもしれません。俺が全く覚えてないから……妊娠したのと相手が竜二だったことにビックリしただけです。俺も……知った後に竜二を避けてしまって後悔してます」 「体のことを竜二は知ってたのかしら?」 「いや、知らなかったはずです」 「そう。じゃあ竜二は俊君を……その」 「男でも好きになってくれたんだと思います」 「……そうね」 「それでその、今後なんだけども、竜二が申し訳ないことをしたのは、幾ら私達がお詫びしても取り消しようがない事実。私達は俊君に何をして償おうか、出来る限りのことはする」 「償い……」  どうしよう。  償いと言われてももう、竜二は責任取って俺を嫁にしろとか、そんなのしかない。恋愛感情があるかと言われたら、多分まだちょっと違う。  でも、俺はそれでいいと思ってしまった。竜二にその気があるのならね。 「俊君の負担になるだけとは分かってるけど……元々望まない妊娠なのだから、その……」 「湯川さん、駄目よ!」 「……俊君が中絶を望むなら、その費用負担もその後のケアも全部させて貰うわ。私は流産の経験があるんだけど、体への負担は本当に大きいの」  考えは固まってる。 「おばさん、俺堕ろさないです」 「えっ?」  竜二以外の奴に抱かれる? 絶対嫌だ。竜二以外の奴の子供を妊娠? それこそ絶対嫌だ。  竜二を捨ててまで付き合いたい女もいない。そもそも俺の体で女の人と付き合うとか、結婚するとか、ハードル高過ぎるし無理だと思ってた。  そんな相手の子供を堕ろす理由がない。竜二ならいいって、俺はもう思ってしまったんだ。 「でも、どうするんだい? 竜二を思って遠慮されてもいけない、気を使う必要はないよ」 「いや、決めた事です」  クラスでも宣言したし、俺は竜二に父親させる気満々だ。  そりゃあ最初は竜二が恋人オーラ出して来たらキモいとか思うだろうし、実際夫婦って雰囲気で一緒にいるのは恥ずかしい。  俺はまだ竜二でいい、竜二がいいとは思っていても、大好きとかって気持ちまでは辿り着いてない。友達同士から、恋人同士への気持ちの切り替えをする時間は必要だ。  子供の成長は待ってくれないけど、なんとかするしかない。つか、一度は軽蔑したけど……嫌いじゃない。  というか嫌いも何も、俺に何の非もないような言い方で責めたのが恥ずかしい。俺が覚えてなかったのが悪いじゃん。  恋人になるのが恥ずかしいだの、女扱いが嫌だの、俺の気持ちのせいで子供まで振り回せない。 「俊君……有難う」 「こんな無責任な子だけど、いいと言ってくれるなら」 「あとは竜二が何処に居るかですよね。もう俺が……竜二の子を妊娠したことはともかく、産む事は俺の意思ですから、責任とかそういう話はもういいんです」 「そうね。俊がそう言うならいいわ。湯川さん、俊を宜しくお願いします」 「純子さん……」 「まあ、竜二くんにはきちんと挨拶と説明に来て貰いますけどね。さあ俊、あなたは顔色が真っ青だから部屋で寝てなさい。お父さんに連絡入れるから」 「では私達は竜二を捜しに行きます。俊君、竜二のことを頼むね」 「はい」  前よりも随分と立ち上がるのに時間がかかるようになった竜二の父さん。道子さんもパートに出ながらで大変そうだ。  竜二、迷惑かけてんじゃねえよ。そりゃあ、まあ俺が絶交みたいな真似したから家出したんだろうけどさあ。きちんとした形で一緒になって、孫の顔見せて安心させてやろうぜ。  * * * * * * * * * 『いや、そっちもいなかった、悪い』 「ありがとな、警察とか連絡した方がいいのかも」 『そうだな……とりあえずそこは任せる。みんな今日は捜すの終えて帰るから』 「わりい、宜しく伝えといて」  夜になって古賀から連絡があった。竜二はまだ見つかってない。行方不明……まさかね、とは思う反面、そろそろ警察に頼むべきかと心配になる。  着信拒否を解除して連絡を入れて、数時間経った。竜二の携帯の電源は入ってたから伝言メモも残した。メールも打ってる。  時間はもうすぐ23時になる。さっき竜二の兄貴の桜路さんからも、まだ帰ってきてないって連絡が来た。  やばい。今日の朝の手紙には俺に許してくれとか、愛してるって言葉もあったけど……その答えを聞く気があるのかは分からなかった。  こんな考えは持ったら駄目なんだと思う、ただ、朝の気持ちが変わってなければ、生きてたら返事をしてくれるはず。なのにこの時間まで消息不明ってことは?  警察の捜索って、よく夜は打ち切って朝から再開してるよな? だとすると、捜索願い出して、捜して貰えるのは明日か。  あともう1回コールしてみるか、それで駄目なら竜二ん家連絡して、警察にで………ん? 「俊! 竜二くん帰って来たみたいよ、湯川さんから電話!」 「え!?」  純子……いや、母親が階段を駆け上がりながら俺を呼ぶ。良かった、竜二は生きてた。  いや、待てよ。ってことは、俺からの着信に気付いてないのか? それとも無視? 「俊! 子機持って行こうか? 立てる?」 「今行く!」  竜二が今何を考えてんのか分からない。家に帰ってきたってことは、俺の気持ちとかを、竜二の親から聞いてるはずなんだけど。 「もしもし」 『俊君、今竜二が帰って来たんだけどね、またすぐ出て行ってしまって……』 「え?」 『ごめんなさい、こんな竜二は初めてで……私も俊君に何て言えばいいのか』 「竜二は何か言ってました?」 『話をする前に部屋に戻って、すぐにまた出て行ったの。桜路が追ったけど見失ったみたいで』 「どっちに向かいました?」 『え? ……桜路、竜二はどっちに出て行った? ……じゃあ商店街の方ね。……あ、うちから見て商店街の方らしいの』 「うちの方角かも、有難うございます!」 『本当にごめんなさいね、一番大事な時期にこんな心配をかけて……』 「気にしないで下さい、こちらこそ本当にすみません」  家が絡むことでもあるから、そりゃ気にしない方がおかしいんだけどさ。今はどれだけ俺と福森家と湯川家が理解しあって話進めたところで、肝心の竜二はどこだよって話で振り出しに戻る。  なんなら俺だって、お宅の息子さんを(たぶら)かしてごめんなさいと謝るべき所だし、結局は俺に気遣うとかより、竜二捕まえるのが先だ。 「商店街の方なら、ちょっと見当つく場所あるんで捜します」 『こんな寒い中駄目よ』 「大丈夫です、だいたい分かったんで」  分かってなんかないのは勿論だけど、とりあえず行動したくなった。だから電話を切った後、自分の部屋に戻って着替えた。  この時期なら腹出てもバレにくいんだけどな。腹が出始める頃から薄着になるし、タイミング悪いぞ竜二。いや、俺の体は子作りに準備万端だったのか。 「俊、お父さんが呼んでる」 「え、うん」  着替え終わって、リビングにいる両親にちょっと外に出るって伝えようとしたら、母親に引き留められた。そう言えばまだ親父とはちゃんと話してなかった。 「何、って大体分かってるけど」  親父はいつも、大切なことは静かに話しだす。こっちも真剣に聞かないとと思うと緊張する。  繕ったような話は一切許さないって考えが伝わるから、むしろ正直に言ってることを理解して貰おうとして、しどろもどろになる。

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