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008 俺に恋して孕ませたあいつ-08

「おい竜二!」 「!?」  竜二の肩がビクッと震え、こっちも見ずに静止。そんなにビックリされると凹むんだけど。 「………」 「………」 「…………」 「こっち見ろって」 「……」 「あーもう! お前を避けた俺が悪かった! とりあえず仲直り、駄目か?」 「う……うぅ~ごめん、俊ごめん……!」  竜二が急に涙を流しだす。こんなに思いつめていたなんて。目の下のクマはすごいし、やつれてる。竜二も俺との事、真剣に考えてくれてたんだよな。 「や、あの……竜二?」 「竜二、お前泣くなって。俊、こいつとりあえず連れていこう」  安堵なのか何なのか分かんない涙を流して咽び泣く竜二に、俺も古賀っちも戸惑いながら近くのバス停のベンチへ。流石にバスは通ってない時間だから、迷惑にもならないだろう。 「竜二、その……あん時は俺もまさか竜二が相手とか思わなくて混乱してて、ちゃんと話聞いて2人で考えりゃ良かったとか反省してる、あーほら泣き止んでって」 「竜二、俊に話あんだろ? ほら、何の為に俺がずっと付き添ってやってんだ」 「……ずっと?」 「いや、それは竜二が」 「俺……俊に完全に嫌われたと、思って、連絡もつかないし着……信、拒否されてこれもう許して貰えないと思って手紙書いたりして、今日が最後って」  一度もこっちを見ないまま話しだす竜二。こんな姿を今まで誰が見たことあるんだろう。いつも余裕、綺麗で涼しい顔しか見せないのに、すごく切羽詰まった状況だったんだと分かる。 「手紙、置いて、とんでもないことした俺なんか死ぬしかないと思って、海……行って」 「ちょっと待て、えっ? お前自殺するつもりだったのか!?」  そこまで考えているとは思ってなかった。いや、追いつめている自覚がなかった、というべきか。そっか、そうだよな。竜二は責任とかそういうのを蔑ろにしない。  だから、今まで友達だったんだよな。勝手に裏切られたと思っていた俺のせいで、竜二は絶望していたんだ。 「俺、俊に合わせる顔無いし、もう死んで反省見せるしか」 「そんなことするくらいなら、強引にでも俺に会いに来れば良かったじゃんか」 「俺を避けて嫌がる俊は見たくないから……、いっそ海行って……岩場なら頭打って死ねるとか探してたら、親子、楽しそうに遊んでて」  良かったっつうか、本当に血の気が引いた。そこまで追い詰める意図は無かったなんつって済むもんじゃない。 「ごめん、俺……そんな追いつめてしまったなんて。その親子のおかけでタイミング逃したって事だよな。そうじゃなかったらお前死んでたって事だよな」 「……」 「親子……」 「うん?」 「親子が、いたんだ。手を繋いで笑ってて……見てたら羨ましくて、俺も、俊と子供と3人でやっぱ家族やりたいって思った。だって俺も俊の子供にパパとか親父とか言われたい。俊と結婚もしたい」 「はいストップ!」  思いをぶつけてくれだした竜二を、いきなり古賀っちが遮る。俺もなんか感動して泣きそうになってんのに。 「竜二、ほら、そんな流れで言わないでしっかり言えよ。目の前に俊がいるんだぞ」 「ズッ……ああ、よし、言う」  言う? や、この流れで言うならあれか? とかちょっとドキドキす……る。 「俊が好きだ。男でも関係ない。俊とお腹の子供と俺と、一緒に家族になって」 「お、おう」 「結婚してくれ」  言った、言ったコイツ…… 「……俊?」 「よ、よろしくお願いします……」 「俊!」  うわ、何だよよろしくお願いしますって。だって、なんつうか真剣な顔で全力で俺のこと見てますって姿に、何も言葉出なかったし。  今も竜二の泣いた後の優しい笑顔が……救われたみたいな顔しやがって、やべえ、すげーカッコ良く見える。 「……何で泣くんだよ馬鹿」 「だって、もう俺、俊のこと抱きしめていいんだよな? 毎日一緒にいていいんだよな?」 「………ぅ」 「俊、大好きだ、大好き、本当にごめん、辛いのは俊なのに俺の方がこんな、情けない奴で」  俺におもいっきり抱きつきながら、鼻すすって泣く竜二を引き剥がせない。隣の古賀っちを見ると、ため息と一緒に後はうまくやれよ? と言ってそっと帰っていった。  古賀っちに感謝。あいつが俺のことも竜二のことも大切なダチだって考えてくれてるのが分かる。俺のこと諦めた上に恋敵だった竜二の為に動いてくれて、一生頭上がんないな……。 「俺の方こそごめん。考えないといけない事を全部竜二のせいにしてた。まだ恋愛感情とか追い付いてないし、本当に俺で……いいのか? うっかりヤっちゃった、って事はないんだよな?」 「うっかりなんてあるかよ……絶対落として見せる、抱いて見せるって、3年間ずっと考えてたんだぞ。俺今幸せだから。何て言われようと離れない」 「……」 ああ、ほんとガチのやつだったんだ。責任感とかそんな事は後からの話で、竜二は俺の事、ずっと好きだったんだ。 「俺のこと好きになるよ」 「ぷっ、何だその自信」 「頑張らなくても俺モテたのに、これから俊を惚れさせるために全力で頑張るからね」 「馬鹿、自分で言うとか」  人が通り掛かるのも関係無く、竜二はずっと俺を離さない。  この温もりは、多分2回目だ。抱きしめられるのも、愛を告げられるのも、きっと初めてじゃない。子供が出来るような行為をした日にも、同じような事があったんだと思う。 「ごめんな」 「ん?」 「お前と……その、何も覚えてなくて。俺にとっては竜二にこんな風にされるの、これが初めてって感覚」 「今だから言うけど、あの時かなり貪ったから、俊の体もキスも。絶対思い出させる」 「……俺、その時何か言った?」 「特には無かったけど、3回くらいその……ねだられた、かな」 「は!?」 「まだ……抜かないでとか、自分で腰……おっと」 「分かった、いい、合意の上なのだけ分かったらいい」  竜二に求められて、俺はそれに応えていた。それが分かったから、もう竜二を責める理由もない。  どんな気持ちだったんだろ、もう一度抱かれたら思い出すのか。安定期前にセックスすんのはどうなんだ? ……あー、なんか今すげー抱かれてもいい気分。 「うち、今から来るよな? お前連れて帰らないと俺家に入れて貰えないし」 「……うん」 「今回の件、親父大激怒してっから」 「だよね。けど俺殴られても引き下がらないよ」 「当たり前だろ、俺だって相当な覚悟で来たんだからな」  ほんの1、2週間前までは大親友だった。それから今日までは絶対許せない存在だった。俺を襲って孕ませて知らん顔だったし。  今は、竜二を見るのに緊張する。格好いい友人は、恋人相手だとこんなにも甘い雰囲気を出すのか……と酔ったようにドキドキするんだよ。  今更諦められちゃ困るんだ。 「俺……さ、俊のこと、ほんとにずっと前から好きだったんだ」 「いつくらい?」 「転校してきて、俊が学級委員長として職員室まで迎えに来てくれた時」 「はぁ!?」  まさかそんなに前とは思ってなかった。俺にとって竜二は転校してきてからずっと、信頼できる友達だったから。まあ俺も秘密にしてたことはあったわけだけど。 「目が合った瞬間に可愛いって思った。それはそれだけで終わったんだけど、最初から仲良く話してくれて、目をかけてくれて。でも仲良くなりたいと思ったら、他の奴と仲良くするし、俺を特別扱いしてくれない。俺を恋愛対象として見てくれないわけよ」 「そりゃあ……男だからな。心は生涯男なつもりだぞ俺」 「生まれて初めて、こいつ俺に惚れないかな……って期待した。勿論男だし、友達の立場でしかいられないのは分かってたけどね。男でもいい、俊に告白されたら仕方ねえなとか言いながら付き合おうなんて何百回考えた事か」  待てよ。思い当たることいっぱいあるぞ。彼氏役って茶化された時、こいつ本気だったんだ。抱きついてきたのも、頬にキスして来た時も、あーなんか竜二が俺の回想の至る所に出てくる。  ……全部距離が近い。あーこれ、俺を落そうとしてたわけだ。あー完全に理解した。

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