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011 俺に恋して孕ませたあいつ-11
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「マジ卒業かぁ、寂しいわ」
「竜二ぃ、お前狙いが校門に溢れてる、どうすんのあれ」
3月1日になった。卒業式はあっという間に訪れて、あとはクラスに戻って担任の話を聞いて終わりだ。
友達じゃなくても仲間。話せば笑いが出るし、これでお別れ……っつうのも寂しい。
俺と竜二は保健室から講堂に向かい、式に参加した。体調もあるけど、人気者の竜二に渡せと、近所の高校の女から頼まれた……とかいう奴等が押し寄せてウゼーってことも理由。
俺らのクラスは団結が強い。3年D組ヤマセンクラスはお祭り騒ぎが大好きで、お世辞にも行儀が良いとは言えない。
チンパンジーを自認し、せめて卒業までにオラウータンに進化(ヤマセン曰く、人間への進化は無理らしい)する事を目指してきた。
結果、38名がみんなチンパンジーのまま卒業となる。
そんな馬鹿クラスだけど、意外と勉強は出来るし絆は強い。それに誰も俺と竜二の事を外に漏らさなかったし、俺が妊娠している事を本当に他所のクラスは1人も知らないようだ。
「つか他の学校もう終わったのかな、それとも下級生? あれは」
中学卒業の時に、押し掛けた女子にボタン全滅はおろか、学ランまで脱がされた竜二。今の正門を見る限り、真実なんだろうと誰もが頷く。
「2個下にまだ春日とか久保田とか田辺とかさ、イケメンいるのにな」
「そう言えば俊は春日とか佐倉って奴と仲良かったよな」
「お前嫉妬とかやめてくれ気持ち悪い。そりゃあ宗太や良はすげーイケメンだけど」
「ははは、嫉妬とかしないよ、眼中にない」
「そういう所が性格ヤバイって言われるんだよ」
教室で集合写真を撮れば高校生活も終わる。俺は悩んだ結果、進学を断念した。未練はあるけど、なんだろうな。自分に正直に、つまり母になることを優先した。
みんな、思った通りだったり、思ったものとは違う道だったりを進んでいく。俺達はたまたま3年間道が重なった。その別れ道はすぐそこだ。
「あ、ちょっと2人とも待ってくれ」
「ん?」
教室に着くと、皆がなんだかソワソワしてる。待つように言われた……ああ、展開的に俺達のお祝いとか花でも渡す気かよなんて予想してみる。
「入って!」
「俊、なんか予想つくね」
「まあ、嬉しいことなら驚いておこうぜ」
教室の引戸を開け、勢いよく入ると……
「え!?」
「うわっ」
「「おめでとう!」」
教室の中はいつ準備したのか、即席のチャペル状態。黒板にはどこかの教会の絵が貼られ、机はベランダに出されて、椅子だけが綺麗に並べてある。
吹奏楽部の奴が音楽室から出してきた電子ピアノをひいて……
「ほら歩け!」
驚き感動する中、赤く塗られた画用紙で作ったバージンロードの上を歩くように言われ、恥ずかしいよりもドキドキしながら教壇前へ。
神父役を自らかって出たという山下先生、ニヤニヤして、席に座ったクラスメイト。そうだ。俺達のクラスって、こういうお祭り騒ぎが好きなんだった。
「誓いの……キスを」
最後、先生がニヤリと笑い、この後のみんなの反応は……言わなくても分かるよな。
籍も男のまま、まだ入れられない。式なんて奇異な目で見られるだけだから、と挙げないつもりだった。
それが、こうして手作りの空間で祝って貰えてる。
解像度の悪い引き延ばされたどこかの教会の絵、セロハンテープで繋がれたペラペラの赤に塗られた画用紙、教壇に、椅子は教室用。ドレスもタキシードもない。こんな結婚式ってあるか?
それでも俺はビックリしたし、嬉しい。
「竜二!」
古賀っちが竜二に呼び掛け、そして何かが宙を舞い、竜二が受け取る。
「ごめん、すぐ持って帰れるの、これしか無かったんだ」
「……えっ」
「指、多分サイズ合うと思う」
竜二が取り出したのはふたつの指輪。とてもシンプルで、石がキラキラ付いてる訳でもなく、普段からつけていられそう。ああ、このサプライズ、竜二は知ってたんだ。
つまり、この式は俺のため。指輪なんて全然考えてなかった。
「いつの間に」
「古賀に預かってもらってたんだ」
指にしっかりと馴染むサイズ、竜二も長くて綺麗な指によく合ってる。ああ、くっそ。3年間学級委員長やって来て良かった。
「もっかい誓いのキス!」
「やっちゃえやっちゃえ!」
「ちゅぅー」
「キーッス! キーッス!」
「竜二、有難うな」
面白半分の声だと分かるけど、こうしてこの場を作ってくれたみんなに、何か応えたい。
「よっしゃ! 濃いの一発やってやる、竜二目瞑れ」
「え? ……んっ」
唇を吸い、舌を入れて何度も角度を変える。最初は驚いていた竜二も、途中から俺の頭を抱え応戦。
いつの間にかクラスはシーンとしていて、恥ずかしくなって俯く俺の代わりに竜二がみんなに向かって何かしたのだろう、拍手や祝いのコメントが一斉に飛び交った。
「教え子の、まさか結婚式に参列できるとは思わなかったよ」
そう山下先生が締めくくり、少し長いホームルームは終了した。
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「あ、湯川先輩!」
「竜二さーん!」
「俊、これで顔隠しといて」
先生や部活動の生徒たちに見送られ、いよいよ校門を出る時が来た。外では案の定まだ女の子が待ち構えている。一緒にいたクラスの奴等に渡され、俺は誰かの帽子を被せられた。
「じゃ、みんなまた会おうぜ!」
「おう! 委員長、体気をつけろよ!」
「幸せになる呪い掛けてやるからな!」
これでもかという程惜しんだのに、まだ名残惜しい。けど、そんな雰囲気はすぐに打ち消された。
「湯川さんこれ受け取って下さい!」
「湯川先輩!」
「好きです先輩!」
女の子たちはどこから聞きつけたのか、竜二がまだ校舎内にいる事を把握していたようだ。それどころか、どこの県の何処の医学部に行くなんて話まで把握している。
……でも残念、その予定はキャンセル。竜二は一浪して、文系の学部を受け直す。竜二が家の人と話し合い、悩んで決めた結果だ。
「俊、左手」
「え、あっ!?」
竜二に腕を掴まれ、そしてみんなに指輪のはまった指を見られる。
「俺、こいつと一緒になるから」
そう言って竜二は俺の頬に口付け、俺をチャリの後ろに乗せる。
「俺に求婚していいのは俊だけだから」
「……最初からそうやって強気でいろよな」
呆気にとられた顔の女子を置き去りにし、自転車はゆっくりと家へと向かう。男子校で学ラン着た男と結婚宣言。
事情を知らない周りから見れば完全にホモカップル。いや、間違ってはないが。
それなのに、自分に決まった相手がいると宣言出来て満足したような竜二。竜二は随分前から俺と生きていくつもりでいたんだろう。
「やっぱ、コイツ俺のだからって言えるのって気持ちいいな」
「……まあいいか、竜二がいいなら俺もいいや」
竜二はどこまで計算済みなんだろうか。竜二の願いはどこまで叶ったんだろう。でももうそれもいいや。
いっそなんだかコイツ可愛いな、とかって感情が湧いたのは、また次の機会に。
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