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012 それはあいつとの出逢い-01

  【それはあいつとの出逢い】  普通に学校に行って、普通に勉強して。  普通に彼女がいて、普通にデートして、そして普通にセックスもして。高校生のよくあるパターンだ。  そしてそのうち「他に好きな人が出来た」って言われて終わるのまでがテンプレだ。 「ごめんなさい、他に好きな人が出来たの。さようなら」 「えっ、ああ、まあ、うん……そっか」  俺の恋愛もまた1つ終わった。  というか終わるなら終わるでも良かった。付き合って、相手の事を好きになれたらいいなくらいにしか、いつも思ってなかったから。  好きで好きで仕方ないっていう感情が追い付くよりも、数倍のスピードで溜まっていく他人からの好意の量に、俺はすっかり麻痺していたんだと思う。  いわゆる元カノが心変わりして意中の男と付き合いだし、仲がいい姿を見せていた頃も羨ましいとは思わなかったし、別れた事への悔しさや寂しさなんてのもなかった。  あんなに好きだと言って近づいてきたのに、違う相手にすぐ切り替えられてすげーな、若干同時進行じゃねえか? 発情期のメスってあんな感じかな、くらいに思っていた。  俺は幼い頃から自覚せざるを得ないくらいにモテていた。  保育所、小学校、中学校、そして高校に入ってからも、ラブレターだの、放課後の呼び出しだの、優越感を超えるスピードで面倒くさいという感情が満たされていく日々だった。  そんな生活で、自分がモテる事に気付かない方がおかしい。  そりゃセックスは好きだし、その頃は女が群がる分には別に構わなかった。モテること自体は気分がいい。それに仲がいいという関係は誰とだって楽しかったし。  ただ、思い返してみれば許容量を超える好意を消化しきれず、当時の俺には他人を恋愛対象として好きになるなんて余裕は無かっただろう。 『ホント、湯川君ってカッコイイよね!』 『マジ羨ましい、おれもあんな顔で生まれたかった』 『アイツはモテるから何でもありでズルいよな』 『ブサイクの気持ちは分かんないだろ、調子乗って性格曲がってそう』  知らねーし! 女子なんか全員一緒だから! と愚痴を零せば、友人からも咎められる。だって、カッコイイって言われて俺は何て返せばいいんだろうか。  ありがとうって感謝の言葉は口にするけど、別に感謝してねーから。放っててほしいから。放っててくれる奴にマジ感謝だから。  でもそれを正直に言えば、途端に「中身はクズ」って言われだすんだ。  他人がイケメンに生まれてないのは俺のせいじゃないし、何でもアリじゃないし、ちょっとでも何かしたらイケメンは性格悪いとか言われる。  俺の事を僻んで根も葉もない噂を立てる自分達は、性格が悪くないとでも思ってるんだろうか。  外見相応の中身を求められるイケメンの気持ちがブサメンに分かるのか。伴わない中身を外見に合わせるのは大変なんだ。  周りが好き好き言ってくるのはあいつらの勝手。勿論、好きなのは俺の見た目だけ。俺を見た目で選ぶなら、お前らも見た目で選ばれることを何故考えないのか。  そう思いながら、いい加減うんざりし始めた高校1年生の秋の事だった。 【それはあいつとの出逢い】そんな俺にも、素敵な恋がありました。 「湯川! お前何他人の彼女たぶらかしてんだよ!」 「……は?」  高校1年生、ようやく色々な事に慣れ始めた秋。それは突然の出来事だった。  隣のクラスの……やや素行の悪そうな男が教室に入ってきて、俺の席の真横まで来たんだ。  高橋何とかって奴。そしてコイツは元カノが俺から去って行った理由。  見かけた事がある程度の奴だけど、チャラチャラしていい気になってるなとは思っていた。  こうして実際に近くで顔を見ると、雰囲気イケメンとでも言うべきか、髪型イケメン? 横柄で俺様な態度の割に、顔は大したことない。 「お前の事が忘れられないとか言い出したんだぞあいつ!」 「あいつって、ああ、中西?」  中西ってのは元カノだ。 「ああ、じゃねえ! お前どういうつもりだよ! 「どういうつもりって……ご自由に? 俺、あいつと別れてるしもう関係ねーんだけど。つか、お前の事が好きっていうから別れたんだぞ、今更何もねーよ」 「お前がちょっかい出してんじゃねーのかよ、未練がましく他人の仲引き裂こうとしやがって!」 「いや未練とか全然ないけど。つか、お前も他人の仲に割って入ろうとしてんじゃん、馬鹿じゃねーの」  中西が「やっぱり俺の方がいい」って言い出して、この高橋なんとかが何故か俺に恨みを抱いて乗り込んできたっていう、よくあるようでそんなにない修羅場。  そして、何故かコイツの中で、俺が中西の想いを受け入れる事になってる。ただの言いがかりだと、俺は何もしていないと説明をしても全く聞かない。  俺、1度振られた相手に未練がましく縋るほど、困ってない。  中西は教室の入り口でこっちを心配そうに見ている。あっちフラフラ、こっちフラフラ、てめーがビッチなせいで面倒くさいことになってんだよ……。  お前が説明しろと思っていたら、真剣に聞いていないのがバレたのか、高橋は更に怒りが込み上げて来たらしい。 「急にお前の方がいいとか言い出して、おかしいだろ! お前がアイツと俺が付き合いだしたのを邪魔して腹いせしようとしたんだろ? マジ許せねえ」 「は? なんでそんな話作るの上手いの? 妄想? 病気? 俺、別れた相手追う程女に困ってないんだけど」  そう言い返した時だった。  高橋が手に家庭科室のっぽいナイフ持ってるのに気付いた。  うわやべえ奴だ! って思った時には、もうそのナイフが俺の脇腹に刺さる直前。俺はうわああと叫びながら、とっさに高橋を蹴り飛ばしていた。  流石に恐怖。いや、これで心拍数上がらない奴いたら俺ですらそいつに惚れるわ。  でも蹴り飛ばして落ち着こうとしたら、だんだん腹が立ってきた。恐怖が落ち着くと、その裏で隠れていた怒りが爆発した。  何を言ったのかあまり覚えていなかったけど、 「もうウンザリだ! お前らが誰を好きでも知らねえよ! 俺を巻き込むな! 顔面と性格直してから来いやブサイク!」  と言って(いたと後で聞いた)怒りに任せてそのブサイクの髪を掴んで引きずり、職員室に突き出した。そういえばナイフはどうなったんだろう。  ブサイク野郎を職員室に突き出した後、急遽校内の全授業は自習になり、先生が職員室に集まった。そして俺とブサイクがそれぞれの担任と一緒に校長の机の前に立たされた。  別に俺は全く悪くないから、全部を話してやった。  蹴ったのは正当防衛じゃん。俺が刺されてたら先生たちが困ったんじゃないかと思う。  相手のブサイクは色々とゴネて俺が悪いだの何だの言ってたけど、その場で起きた事実を話せば「馬鹿な男子生徒が感情的になり、気に入らない隣のクラスの男子生徒に刃物で襲いかかった事件」であることがちゃんと分かって貰えた。  ま、俺のクラスメイトが大勢見てたし。  そしてしばらく時間が経つと、いつの間に連絡したのか、互いの母親が登場した。  事の経緯をその場で簡単に説明された後、相手のブサイクの母親は、ブサイクな息子を瞬時に折りたたむように座らせて、後頭部をつかみ、その頭を思いっきり床に打ち付けて共に土下座をした。  申し訳ございませんでした、というその声は、叫びのようでも消え入るようでもあり、まさに懺悔というべきものだった。  俺は何も言えなかったけど、うちの母親はキレていたのが丸わかりで、一言だけ言わせて下さい、と話しだした。 「うちの子に怪我をさせていたら、警察にも届け、そしてあなた達が日本に居られなくなるくらい精神的に追い詰めたいと思いますけど、幸い竜二も怪我してませんから不問にします。いいわね、竜二」 「別に、いいよ。だって今の今まで謝る気もなかった馬鹿に、期待する事なんかないし」  土下座の高橋母は消え入るような声で有難うございますと言っていたが、ブサイク息子はどう思ってるのか分からなかった。 「でも覚えててね、あなた、他人に刃物を向けたのよ。刺そうとしたのよ。そんな人が他人を好きになる資格も、好きになってもらえる資格もある訳ないでしょ! あなたに刺し殺される恐怖と隣り合わせで、誰があなたと人生共に歩けるの!」  ブサイクの耳には入っているんだろうけど、どうだろうな。話して分かるまともな人間だったら、そもそもナイフで俺を刺すなんて事はないだろうし。  今この時も、俯いたまま俺の事を恨んでるんだろうな。

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