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016 それはあいつとの出逢い-05

「竜二、分からない事あったら俺に訊けよな」 「有難う。最初に話すのが俊で良かったよ」 「俺じゃなくてもみんないい奴だから大丈夫だよ。多分今日は竜二騒がれ過ぎて疲れると思うけど。帰りは? どっち方面?」 「俺は……よく説明できないけど県道43号線? を北町商店街っていう方向にいった先かな。俊は?」 「おー、俺その商店街の手前! 多分めっちゃ近所じゃん! 自転車? 歩き?」 「自転車」 「マジかー、俺歩きだわ。自転車盗まれたんだよな、新しいのしばらく買ってもらえねーし」 「サドルだけとか?」 「本体! セットでいただかれたし! サドルだけだったらウケるわ」 「帰り時間が合えばニケツするよ? 一緒帰る?」 「え、マジ? 帰る! 転校生神だわ、もうめっちゃ俺の中の株上がった」  2人乗りを申し出ると、廊下に響き渡るような声で返事をし、目を輝かせる。こんなに反応がいいのも気持ちがいい。  もしかして、俊のストーカーが自転車盗んで、今頃サドルに顔擦りつけてハァハァ言ってんじゃないだろうか。お前男子校に来ちゃダメな奴だろ。 「……あと、これも」 「何?」  俺が鞄から取り出したのは、先程チラッと話題に出したヤメルンジャーのマスコットキーホルダー。  ゆるキャラ全国制覇を狙うニャーと言って売り出したはいいが、予想外の人気であっという間に売り切れ、全くPRに役立たなかったレアものだ。 「わ! マジ!? さっきから俺マジ!? を連発してんだけど! これ黒ネコジャーじゃん! うわマジ可愛い、え、これくれるの?」 「いいよ、俺白ネコジャー持ってるし」 「俺ね、黒ネコジャー派! あの無愛想なカンジ好き!」 「俺は白ネコジャーのおこぼれにありつく感好きだな」  初対面とは思えない会話をしながら、教室の前にたどり着く。俊は何の溜めもなく、教室の引き戸を開け、先生もういい? と入っていく。 「もうよくないけど入れ」という返事で恐る恐る教室へ入ると、とりあえず言ってみただけであろう「おお~~」という歓声が聞こえてきた。 「きた、お? イケメン!」 「マジなに、イケメンじゃん!」 「男子校に、イケメンが、キター!」 「何その無駄フラグ、どなたか生徒さんの中にホモの方はいませんか~?」 「ちょ、まってイケメン撲滅戦隊出動きた! 初出動きたかこれ」 「はいー今お前全員敵に回した―、この中にイケメンいませんみたいな発言したーはい半殺しー」  えっと…… 「お前ら聞け! イケメンの名前も聞いてねえぞ俺ら!」 「ちょー静かにしよ! 名前! 転校生名前!」 「なーまーえ! なーまーえ!」 「なーまーえ! なーまーえ!」 「イケメン名乗れや! 聞かせていただきますから」 「なんで弱気!?」  まだ俺が教室に1歩入っただけなのに、なんだこの反応。想像以上に騒がしい。俊を見ると、だから騒がしすぎて疲れるだろうって言ったじゃんという顔をされた。  全く鎮まる気配のない教室内。一通り騒いでもう気は済んだか、と言って、山下先生がクラスの大騒ぎを沈める。 「静かに! 福森は席につけ、湯川、黒板に名前大きく書いて3分以内で自己紹介。3分過ぎたらお前のあだ名はのび太君にする」 「お~? イケメンチャーンス!」 「のっびっ太! のっびっ太!」 「おーい君をつけろ、君を。体罰として廊下に立たせるぞ」  黒板に縦書きで名前を書くだけで「縦書き!?」だの「古風なイケメン」だの騒がれる。 「湯川竜二です。えっと青井市から来ました。昨日こっちに着いてよくこの辺り分からないんで、色々教えて下さい」 「趣味は!」 「趣味は……特にないけど、書道とか通ってたんで得意です」 「書道~!?」 「書道とかどうでもいいって! 彼女は!? 女の子紹介して!」 「あ、いや、今はいないです」 「今『は』!?」  聞かれるとは思ったけど、答えたら「あ~あ」という声が一斉に発せられる。というか、何を言ってもいちいちオウム返しのように反応される。俺、何もおかしくないよな? 「彼女繋がりで女紹介して貰えるチャンスだったのにー」 「はははっ、お前紹介されても向うからお断りだろ」 「それ酷いわ佑ちゃん、裁判で謝って?」  あたりさわりのない質問が飛び交い、次第に童貞かなどと完全にシモネタになりだした頃、ようやく先生によってストップがかかる。 「とりあえずここまで、湯川は席につけ、福森の横の席だ」  クラスの窓側の前から4番目に俊が見える。その横に1つ席が空いているから、そこが俺の席なんだろう。 「竜二、こっち!」  俊が大きな声で呼びかけてくる。と、それに反応して一斉に「竜二!?」とビックリするような声が響いた。俊の顔は……全然悪かったという顔をしていない。  これはイタズラなのか、それとも俺を溶け込ませるためのワザとなんだろうか。 * * * * * * * * *  席に着いてから1限目の授業の先生が来るまでの間、俺はひたすら質問攻めに合っていた。ここまで反応するか? という程のノリだったが、どうもこれがこのクラスの普通なようだ。  横を見ると、俊は後ろの席の奴としゃべっている。どうやらスマホのゲームの話のようだ。  俺だってそれやってるんだぞと思うが、席の周りに集まったクラスメイトのせいで俊に話しかけることが出来ない。  授業中は勿論話しかけられず、休み時間も大人気な俊は1人きりになることがない。昼飯の時間、仲良く食べるグループがあるようで、竜二も来いよと呼びかかけられてようやく一緒に話が出来た。 「竜二の弁当なんか野菜少なくね?」 「ほんとだ、湯川野菜嫌いなん?」 「これ俺が作ったから」 「「マジで!?」」  クラスの半数は学食組らしく、そこまで騒がれはしないが本当に疲れる。俊に助けを求めるように会話を振るが、俊は気を利かしたつもりで色んな奴と会話をさせようとしてくる。  俺は俊と話をしたいんだが……思うようにいかない。 「あ、湯川さ、委員長の玉子焼き1つ貰ってみ? 福森家の玉子焼きマジ絶品だから!」 「え? 玉子焼き?」  ふとした会話で俊の弁当の話になったとき、1人が玉子焼きの話題をしかけてきた。玉子焼きなら自分も弁当に入れる為に作っている。  が、これはチャンスと思い貰えるように頼んでみた。 「美味いなら1つ貰っていい?」 「しょーがないなあ、俺転校生には優しくしろって言われてるし……しゃあねえ、うちの絶品玉子焼きやるよ! はい」  俊はかなり勿体ぶった言い方をしつつ、はい、と俺の口に入れようとする。まさか食べさせられることになると思わずビックリしていると、それに気付いたのか、俊の顔が赤くなる。 「うわ、このショットいいね! ダーリン、あ~~ん♪ みたいな? みたいな!?」 「竜二君、はいあ~ん♪ って、あたしもついでに食べて! ってやつだろこれ!」 「うるせえお前ら、竜二はやく口あけろ」  食べさせてもらうというシチュエーションに、こっちもドキドキする。そうだ、男しかいないからこういうのを全然意識していないんだ。  なんて罪作りな奴なんだ。俺が男なら惚れるぞ……あ、俺男じゃん。 「うわ、うまい」 「だろ? 俺も作れるけど、これはうちのお袋のね」  甘いと言われたら甘いかもしれないが、ふんわりとした食感がダシ巻きに近い気がする。 「なんでこんなフワフワなんだ?」 「これ、サラダとかの時に使うザルあるじゃん? 味付けた後あれの目が細かいので裏ごしすんの、卵を。だからふわふわになる」 「それほんと?」 「さあ。本当かどうか分からないけど、お袋がそう言うから多分そう」  お返しにと、俺が朝作った玉子焼きも食べていいよと言いたかったが、俺の作ったもんはこんな味はついていない。料理を作り慣れていない精一杯の弁当が少し恥ずかしくなる。

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