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017 それはあいつとの出逢い-06
「俺の弁当もどれかいいよと言いたいんだけど、あんまり美味くないんだよな」
「そう? じゃあこれもらう」
そういうと俊は俺の作った玉子焼きを迷うことなく取り、一口で頬張った。
「委員長、ちょっと! 竜二からあ~んして貰えば良かったじゃん! 何で勝手に取って食うわけ? ほんとマジ見た目を裏切るガサツだよな、わかってねーなぁ、チンパンだなあ」
「委員長ね、顔だけは可愛いから。湯川もそう思うだろ?」
「もう朝会った時に言われたわ。つかじゃあ、あ~んされてやるからもう一個食わせろ、ほら」
そういうと俺が何を取るかも決めないうちに口を開けて待つ。次はおれが一番頑張った唐揚げを口に入れる。これは母親に習ったから不味くはないはずだ。
「む……おお、これ美味い!」
大きな俊の目がますます見開かれ、それだけで十分感想として嬉しい。美味いと言ってもらえたことでなんだか欲が出てくる。
こんな奴と友達だったら楽しいだろうな。俊と遊んだり、飯食ったり、色々としてみたい。
けど、俊はマジで友達が多い。このクラスに、多分友達じゃない奴がいない。順番待ちなんかしていたら、いつ俺の番が来るか分かったもんじゃない。こうなりゃ先手を打つしかない。
「俊の玉子焼き美味しかったからさ、今度作り方教えてよ」
「お? いいよ! 今日はまだ竜二も家とか大変だろうし、土曜日は? 昼学校終わってから俺んち来る?」
「え、いいの? やった、行くよ」
許可が下りて思わずよし! と言うと、俊がどんだけ玉子焼き好きなんだよと突込みを入れてくる。
別に玉子焼き狙いじゃないんだけどと思ったが、良く考えたら自分からこうやって動くことは、友達と一緒に遊ぶ時ですら無かったように思う。
* * * * * * * * *
なんとなく昼飯のときの嬉しさを引きずったまま、昼の後の5時限の体育の時間になった。体操服は持ってきたが、一応どうするのか周りを確認してしまう。
けど……確認するまでもなかった。案の定みんな着替えが豪快だ。パンツまで脱げかかっていてもお構いなしだ。
左に目を向けると俊が着替えている最中だった。顔が可愛いせいか、ちょっと体を見てみたいような気になる。女の体なんてもう見飽きたもんだけど、なんだか気になってしまい、自分の着替えもそこそこに、はやく上を脱げ、と心の中で願っていた。
「竜二、結構鍛えてない? 今みたら胸筋とか腹筋とかけっこうあったんだけど」
先に俺が着替えてしまい、俊に早くいこうと呼びかけてそれとなく見るのが自然だ、と考えたら、ちょうど俊に着替えを見られたらしい。
「まあ、ちょっとだけ腹筋とか腕立てとかしてるし、俺割と筋肉付きやすいっぽい」
「いいなあ、俺全然だよ」
そんな俺への感想はいい、はやく脱げよ、と思いながら俊に、そうか? 体質だから仕方ないだろと、ありきたりな返事をする。
無駄毛が全然ない細い足を晒し、下を履き替えた俊がカッターシャツを脱ぎ、そしてTシャツも脱ぎ捨てる。特に恥じらう感じもなく堂々とした着替え方は流石、見た目を全力で裏切る性格そのものだ。
「あー、確かに俊はちょっと細いかな」
そういいながら、ガリガリでもなくしなやかに見える体を眺める。今は絶対に自然に見ている感じを出せているはず、などとなんだかドキドキしながら俊の胸、乳首辺りを見た時だった。
他の奴と変わらないはずなのに、色が綺麗なピンクで、乳暈現象が治まってなさそうな乳輪がややぷっくりと膨らんでいる。それに気付いた瞬間、頭を殴られたような衝撃が走った。
なんだ、これは。
訳も分からないまま股間がその一瞬で勃ち上がった。幸い時間がまだあるため、俺は隠すように一度座って何でもないように装う。
すごく、いや、見ちゃいけないレベルのエロを見たような気分になった。初めてエロ動画を見た時のような。でも周りは特に俊の裸なんか気にもしていない。むしろ着替えている奴同士で「わはは、乳首立ってんじゃん!」なんて言って笑ってる奴まで居る。気にしてしまう俺がおかしいのか。
上着を着た姿もなんだかエロく見えてしまい、緊張してしまう。この体操服の下に、あの綺麗なピンク色があると思ったら完全に煩悩に支配されてしまう。
顔も見たいがどうしてもさっき見えた胸のピンクが、上からもうっすら膨らんだ形を主張しているのに目が行ってしまう。
こんな気持ちなど恥ずかしくて言える訳もなく、ましてや「ははは、俊のおっぱいマジピンクでやばい」なんて言えるはずがない。俺は平然を装うが、俊はそんな俺の気も知らず、ニコニコしながら俺の傍からはなれない。
そりゃそうだ、学級委員として俺の世話をしろと言われてんだもん。
二人で組んでストレッチをする際も、俊は俺を指名する。
俊と居るのが嬉しくて仕方ないのに、どうしていいか分からない。乳首見せて、なんて絶対言えるわけない。もう俊の顔を見るだけで顔が熱くなる。しっかりと見つめることが出来ない。普通に接することが出来ない。でも、避けたくない。
頭の中は軽くパニックだった。それは、帰りの時もそうだった。
自転車で二ケツして帰ると約束してしまった自分に後悔しつつ、たった1日で仲良くなってしまったクラスメイトに手を振り、一緒にチャリ置き場へと向かう。何で俺は乗せてやるなんて言ってしまったんだ。
「竜二、俺、二ケツした事ないんだよね」
「え、マジで? 多分落ちることは無いだろうけど、しっかり掴まってて」
掴まる所が無いという俊に「俺に掴まるんだよ」と言うと、俊はおそるおそるだが素直に俺にしがみつく。漕ぎ出すと少し怖いのか余計に強くしがみつくから、なんだか笑えてくる。
「服じゃなくて、俺の肩か腕辺りを掴んでくれたらいいんだよ。それか腹に手回してくれてもいいんだけど」
「わ、分かった。うわ、筋肉硬い、すげーついてる」
ああ、俊。なんでいちいちそんなに可愛いんだ。あ~もうちょっと、もっとくっつけばいいんだよ。少し伝わってくる俊の体温が気持ちいい。何で秋なんだ、何で夏服じゃないんだ。
夏服だったら、もしかしたら下に何も着てなかったりして、乳首とか透けてたりしてさ。こんなぎこちない抱きつきを薄い生地越しに背中で感じながら、押し付けられる胸とか妄想しながら、自転車で空だって飛べそうなのに。
いっそ、今ここで振り向いて抱きしめて、自転車なんか乗り捨ててキスして……家に連れ込んでセックスがしたい。女みたいに抱いて、今日見た綺麗な体に舌を這わせて俺に溺れさせたい。
……どうしよう。俺、俊が好きだ。これ、恋だよな。
転校初日に出会ってからまだ半日も経ってない。まさか俺が、そんな男を好きになってしまうなんて。一目惚れとはこういうことなのか。自分から好きになれと言われたけど、好きになるってこういうことだったのか。
どうすればいいのかが分からない。会ってすぐの転校生の男に、好きです付き合って下さいなんて言われたら……どう思われるかは目に見えている。まだしっかりと築けてもいない友人関係すら消滅する。
こうやって体を密着させてくれる日は二度と来ない。ああ、背中で俊はどんな表情をしているんだろう。もうちょっと強く抱きついて、俺をその気にさせようとか思ってくれていないかな。
「あ、竜二、俺この辺だから」
「えっ……あぁ、そうか……わかった」
「有難うな、助かった」
「いいよ、また一緒に帰ろうぜ」
悶々とした頭のまま俊が路地に消えていくのを手を振って見送り、俺は全力でペダルを漕いで家に戻った。
そして部屋ですぐに制服を脱ぎ、ズボンを乱暴に脱ぎ捨ててトランクスをずり下ろすと、鍵をかけてベッドに横になり、自慰をした。
俊の顔、声、そして俊を抱く妄想をオカズにして。
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