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018 それはあいつとの出逢い-07
「あーやばい、あークソッ、抱きてえ……」
左手で枕を力いっぱい抱きしめ、顔をうずめる。絶頂が近づくにつれ、俊の名前がいくつも枕に吸い込まれていく。
「俊、俊……あーイク、出すぞ、俊……っ!」
慌ててあてがったティッシュでは間に合わない量の精液が、手やシーツに滲む。俺は慌てて立ち上がって残りを絞り出した。
「ハァ、ハァ……めっちゃ出てんじゃん、あー気持ち良かった……」
自分の手と自分の妄想って、こんな気持ちいいものだったのか。今まで特定の誰かを想ってヌいたことなんて無かったのに。
初めて会った時の可愛さ、そしてフレンドリーな態度。そして、俺の事をただの友人として無遠慮なほど距離を縮めてきたくせに、俺を恋愛対象に見ていないその罪作りな奴。
悔しい。
俺に振り向かせたい。
男だからって関係ない。だって、もう意味が分からないくらい心臓が熱い。
枕でも掛け布団でも、なんでもとりあえず羽交い絞めにして叫びたいくらいだ。
でも……今はまだこの気持ちをどうすることもできない。俊が欲しい、セックスしたい。
中に出される瞬間の「まさか……」って顔をしながら、気持ち良すぎて駄目と言えない姿とか。これでもう俺のもんだっていう征服心とか。
俺ってこんなに妄想力あったんだっけ。
今までセックスだって1回で2、3発するくらいだったけど、こんなに俊を犯したくて気が狂いそうな程、性欲が強いと思った事はなかった。こいつを俺のものにしたいなんて思いながら女を抱いたこともなかった。
……でも、俊は男なんだよな。女だったら絶対落とせる自信あるのに。
「あーなんかなあ。もう、なんかイライラする!」
俊をどうやって振り向かせよう。
なんで全然興味もない奴からは会った瞬間から好かれるのに、自分が好きになった奴は俺に夢中にならないんだ。「あんたも父親と一緒」なんかじゃない。相手は男だぞ? 俺の場合はハードルが高すぎる。
ああ、欲しい。欲しいよ俊。どうしても俊を手に入れたい。好きって言わせたい。
どうするよ、そっと抱きついて来て、俺の胸元に顔埋めながら「竜二の匂いがする」なんて言われたら。
離れたくないなんて言われたら。
もう骨が折れるくらい強く抱きしめ返して、そのまま押し倒して抱くしかない。もう抱くしかない、それは。
「……あ~駄目だ、ムラムラする、あーヤりてえ、俊とヤリてえ」
今日あったことを思い出してみても、俊とは何も特別な事なんてしていない。出会っただけだ。なのに何でこんなに俺を魅了するんだ。あいつは悪魔か、悪魔なのか。
強いて言えば、俊は俺が思うように動いてくれなかった。俺の事を恋愛感情無しで見てくれた。
俺じゃない奴と平気でトイレに行くし、俺じゃない奴とゲームの話で盛り上がってた。
どうしよう、悔しい。何で俺ともっと一緒にいたいとか、他の奴より俺がいいとか、そんな風に思わないんだよ。
だからこんなに俺の頭の中で滅茶苦茶に抱き潰されてるんだよ。「だめぇ赤ちゃん出来ちゃうからぁ」とか言えよ。マジ言え、言ってくれ頼む。
「駄目だ、一回枯れるまで出そう、全身で性器になったみたいだわ、このままだと俺の頭の中で5回くらい俊が妊娠する」
どうやって俺を意識させよう。転校生という身分にアドバンテージが無くなれば、関係はどうなってしまうのか。
結局その日、俺は飯も食わず、寝るまでに俊を想って追加で5回も欲望を吐き出した。
出し過ぎて痛いなんてことがあるのかと、その時知った。
虚しい。
好きな子に絶対に出来るはずがない事を頭の中でやり尽くし、溢れる感情を抑えきれずに枕に叫びを吸い込ませ、鎮まらない恋心と闘う……そんな自分が情けなかった。
* * * * * * * * *
「おはよう」
「あ、おはよう」
翌朝、起きてからやっぱり1発ヌいた。昨日は訪れなかった賢者タイムをようやく迎えた俺は、それから俊をどうやって自分に振り向かせるか、どうやって俺を好きにさせるかを考えながら家を出て、自転車を漕いだ。
勿論、昨日俊を後ろの乗せて帰った道だ。
「……あっ」
前方に歩きの生徒が見える。背格好からして俊だろうか、そうだといいなと思って近づいていくと、カバンには黒ネコジャーのマスコットがついている。
まさにビンゴ、これは昨日俺が俊にあげたクロネコジャーのレアマスコットだ。
つまり歩いてるのは俊。俺は心の中で気合を入れ、渾身の笑みで挨拶をした。俺目当ての女の時みたいに、分かってて横を通り過ぎたりはしない。
昨日みたいに後ろに俊を乗せて登校出来れば最高だ。どうしても俊が歩いていくなら俺は自転車を押す。
「マスコットが見えてさ。俊じゃないかと思ったらそうだった。着けてくれてるんだ、嬉しいよ」
「流石につけるよ、こいつ可愛いんだもんな」
俺のスマイルを見ろ、おい、何で黒ネコジャーの方見てんだよ。ああ、でも俺があげたマスコットを可愛いと言う俊も可愛い……可愛いなあもう!
だいたい輪郭が綺麗なんだよ、目が大きいんだよ、鼻筋が通ってるんだよ! なんだその誘うような薄いのに口角上がる唇は!
あー駄目だ、煩悩退散、煩悩退散……おい俺、しっかりしろ、俊にはチンコが付いてるんだぞ、いいか、こいつはチンコだ。
あーでももうむしろチンコついてていいから抱かせてくれ。竜二大好き! って言ってくれ。
「どうしたんだ? 竜二、寝ぼけてんの?」
「へっ!? あ、いや、可愛いなって……そう! 可愛いから俺も白ネコジャー着けよう、なんかそれだとお揃いっぽいし、な?」
「ペアルック的なやつ? 男でしてる奴みたことない」
「俺もねーよ、でもいいじゃん。なんか1人じゃ着けづらくてさ。俊が着けてくれて良かった」
ああ、ほら俺今すげーいい笑顔してるだろ。惚れさせようとする全力の笑顔を出せてる。少しくらい何か反応してくれてもいいじゃないか。
俊が女だったらな、絶対に口説き落とせる自信あるのに。笑顔で持ち上げたくらいじゃ流石に靡いてはくれないか。
男が普通の男に告って成就する確率って何%あるんだ? そのまま友達を続けられる確率って何%? 誰か教えてくれ。
「クラス着いたら絶対いじられるけど、まあ、別にいっか。そういえば竜二は自転車押したままでいいの? 俺に合わせるとそんな早目にはつかねーぞ」
あ、これチャンスじゃん! やばい、エロい目的なのがバレたら軽く死ねるけど、バレなきゃもう最高の時間を過ごせる!
二ケツで乗るの下手だから俺にしがみ付くし、ニヤニヤしてもバレないし! ほんと胸ないんだよなあ、でもなんか心がぴょんぴょんする!
俺からガツガツと誘っていくなんて性に合わない。つか、今までの俺のプライドが許さない。
だから、まるで俊が喋ったことで今閃いたかのように誘うんだ。そう、ごく自然に……
「あ、そうじゃん、俊が俺の後ろに乗れよ。どうせ行先一緒なんだしさ」
「は? いいの? マジ?」
「マジマジ」
「やった、ラッキー! 今日はなんか体怠かったから助かるわ」
「どっか悪いのか?」
「あ、いや……えっと、なんか夜更かしとかで、次の日だりぃ時あるじゃん」
「なんなら帰りも送るけど。つかさ、毎朝送ってやるよ、時間合わせようぜ」
そう、これは抜け駆けだ。ライバルが何百人いるか知らないけど、俊は登下校の間だけでも俺のものだ。
「えー、それは申し訳なくね?」
「全然。そうだなあ、7時半に俊の家の前とか」
「有難う。竜二って、無駄に良い奴だよなあ……女の子にもそんな感じなんだろ。どうせすぐ彼女出来て朝無理になった! とか言いそう」
「いわねーし!」
だって、好きな人はあなたですから。
「なんか、お礼っつうか……あー、昼におかず一品やるってのは? 俺が勝手に入れるおかずなら増やせるし」
「え、マジ? 俺、弁当幾ら多めに入れても足りなくてさ。パン買おうか悩んでたんだよ」
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