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022 恋と恋敵と愛しいあいつ-02

 転校2日目にご当地マスコット「ヤメルンジャー」のマスコットをお揃いでつけてから、俺は「彼氏役」として振舞う事を公認されている。それでも独占できるわけではないんだ。  教室に入れば、無投票再選で2年生でも引き続きクラス委員をしている俊に、みんなが声をかける。 「はよー!」 「おはー」 「おっはー、今日の修学旅行の班決めさ、やっぱくじ引き?」 「あ? そのつもり。だってさ、仲良い人で班決めろとかはぜってー人数合わないし」 「集まってみて、後で変えるのはアリ?」 「無し!」  俊はクラス委員長だから、今日の修学旅行の話し合いで班決めや、行きたい観光名所の絞込みを主導する。  誰でもせっかくだから仲がいい奴と同じ班になりたいってのは当たり前だよな。こうやって色々と駄々を捏ねられるのも分かっているんだと思う。  俺としては俊と一緒になれないのは嫌だけど、こんな時まで強引に一緒にいると、逆に引かれないかという心配もある。  他の奴の事も考えろとか、俊と仲がいい他の奴がかわいそうとか、流石にそういう事を言われかねないのは分かってるんだ。  俺はあくまで「彼氏役」なのだから。  そりゃあ修学旅行の思い出の中には、絶対に俊が居て欲しい。でもその為に特別扱いを受けて強引にチャンスを作るのが、俊への近道なのかを判断できずにいる。  ひょっとしたらあえて離れてみて、いつも一緒にいる俺が傍に居ない事で、俊の方が寂しさや恋しさを感じてくれるんじゃないかとも考えてたり。 「おい彼氏! お前は委員長と一緒になれなくてもいいのかよ」 「あ、え……ああ、そりゃ一緒になりたいけどさ、困らせたくねえじゃん?」 「お前今自分の設定忘れてただろ、受け答えが素だったぞ」 「そんな事ないって、まあ彼氏の余裕ってやつ?」    自分に話を振られると思っていなくて、ちょっと焦ってしまった。慌てて「ね?」と俊に可愛くお願いするも、そういう事はきっちりと線を引く俊のことだ。方針を変える事はないだろう。 「ね? じゃねーよ、くじ引きだくじ引き!」  俊は強引にくじ引きを宣言する。後は担任がOKを出すかどうかだな。1年から持ち上がりの担任、ヤマセンが結構テキトーだから、もしかしたら好きなように決めろというかもしれない。  ただ、あまりそれで揉めると皆が何ともいえないような決定をしてくるから要注意だ。  一緒の班になれないならなれないで、我慢できるか分かんないな……。  俺の頭の中は俊のことでいっぱい。勉強は出来る方だから、恋をしたから成績が落ちるなんてことは無かったが、どうやったら俊を自然に抱きしめられるか、どのタイミングなら裸を見れるか、どのタイミングなら告白できるか、どのタイミングで抱けるか。  こんな事をもし勉強が苦手で四六時中考えていたとしたら、留年していたかもしれない。それくらい俊の事ばっかり考えてる。  今日も隙あらば都合の良い俊と俺の方程式が妄想によって組みあがっていく中、午前の授業は過ぎていった。  * * * * * * * * * 「はい!それでは今から、今度の修学旅行の班決めと、班別の行動計画を立てる!時間内で終われよ、俺は17時45分から会議だからな」  1コマ60分、授業時間の調整で設けられた今日の6、7コマ目の長いホームルームは、2年生全クラスとも修学旅行の諸々を決める時間となっている。  先生は黒板の左上に大きく「17時30分まで」と書き、自分の仕事をするべく作業机に座って教材を調べだした。やっぱり好きに決めろということだろう。  クラス一斉にガヤガヤと喋りだす中、俊が立ち上がって教壇前まで歩き、手をパンパンと叩いて注目を集める。そしてやや静かになりつつある全員に向けて、教卓から身を乗り出すようにして「お前ら……静粛に」と告げた。  それを聞いてクラス全員が静かになるはずはなく、むしろ一斉に笑い出す。なぜなら、それが先生の真似だと誰もが分かったからだ。  真似されたヤマセンは立ち上がると、俊に向かって「貴様、俺の真似したんか。……面白いやないか」と言って軽く頭を撫でる。それで全員が更に五月蝿くなる。 「とりあえずさ、何するか決めとこうぜ!」 「いや、決めるの班決めと何処回るかっつったじゃん」 「班って何人組? もうさ、クラス1つで1班でよくね?」 「あーそれいい、お前天才じゃん」 「は? お前は雨男だから天災じゃん、災いの方の」 「はっは! おーい山田君、こいつの座布団を痔に優しい丸クッションに替えて」 「俺別に痔じゃねーし!」 「アァー!」 「やめれ馬鹿!」  男だらけのクラスなんて、そんな物事がテキパキと進むわけじゃない。どうせ残りの30分で全てが決まるんだ。 「うちのクラス山田いねーし! もういいや山口行って来て、グッ○イならできる」 「俺、じいちゃんの遺言で、グッ○イで買ったら駄目だぞ晃一郎って言われてるから無理、ハロ○ィは行ける」 「いや生きてんじゃん! つかハロ○ィってスーパーだし!」 「じいちゃんグッ○イで何があったんだ」  全く関係の無い話で盛り上がり、班を決めたいなどという雰囲気すらない。俊もあまり仕切るつもりが無いのか、一緒に笑ったりしている。ただ、黒板には幾つかの項目を書いているあたり、後々を考えての抜け目がない。  これが、俊がクラスで支持される理由だと思う。  俊は騒がしい中でも一通り喋る終わると、やや大きな声でみんなに流れの1つ目を説明する。  何人で1班か、まずそこからだ。むしろ、そこすら俺達は分かっていなかった。 「とりあえず、班はどうする? 6班作るから6組と7人組になる」 「適当に班分けてみたらいいじゃん、どうせ全員一緒に動くだろ」 「いや、それぞれ6箇所を1班ずつ、帰ってからレポートにしないといけないから。別行動しないといけない」 「えーマジー? 福森、6箇所ってどこ? そこから行きたい奴で集まったら?」 「俺知ってる、青森に六ヶ所ってとこあるんだぜ」 「そこ行こうぜ!」  とにかく、1つ議題を進めるのに時間が掛かる。それぞれが回る有名な観光名所も、都度それは何かと尋ねるやつまでいる。これはもしかしたら班決めだけで終わるかもしれない。 「京都から奈良と大山っつってんだろ」 「お前ぜってーゲーセンとか言い出すだろ」 「はぁ? そんなん言ったらお前フーゾクだろ」 「なあ、京都って何があるんっけ? 琵琶湖のとなり?」 「え、お前京都どこかわかんねーの!?」 「京都県は分かるって! 琵琶湖のとなり、あ、ごめ、滋賀のとなり」 「はい馬鹿発見! 京都府ですぅ~! お前琵琶湖県とか名古屋県とか言い出す奴ぅ~」 「は? 名古屋は合ってんじゃん」 「名古屋は愛知県だろ! お前マジやばいぞ」 「愛知県ってどこよ」 「お前は愛を知らねーんだから、お前の地図だけ名古屋県にしとけ馬鹿」  ん~、俺達を京都に行かせて大丈夫か?  雲行きが怪しくなってきた事を察したのか、俊はもう一度「お前ら、静粛に」と言う。なんとなく注目が集まったところで、俊は四角い箱を教卓の下から取り出し、再び全員に説明を始めた。 「はい、そんな訳で、ここにクジがあります! これで出た班の通りに分かれてください! 絶対に動く時は班で動く事! 班バラバラなったら見つかり次第、バスとかホテルで半日謹慎だそうです」 「えー!」 「自由行動も班ごと? マジでクジなの?」 「えー?」 「えーと、仲良しで~とか言ったら、仲良しだと思ってたのに自分だけその班入れなかったとか、むごい事が起きかねないから駄目ってことになりました!」

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