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023 恋と恋敵と愛しいあいつ-03
「絆崩壊旅行にしたくない、てか俺が自分だけ仲良し一方通行とかそんな辛い現実受け止められないので、絶対にくじ引きです!」
「それ何? 委員長が仲良しグループ入れないとやべーからみたいな事? それなら俺が入れてやるって」
「俺が入れてやるとかなんかやらしくね?」
「あー! なかっちってば、委員長の事狙ってんでしょー? やだあ~、委員長はあたしの所に入れるんだから!」
「裏声やめれ、いや俺が入れる!」
「じゃあ俺が俺が」
多分、進んでない様に見えて、ここまでの流れが俊の計算どおりなんだと思う。なんだかんだでくじ引きだという事がどうでもいいような空気になり、また脱線がはじまる。
それを笑ってみている俊の笑顔がまた無邪気で可愛い。可愛いっつうか、カッコ良くもあって、綺麗なんだよな。そう、綺麗。
修学旅行で2人きりになった時に、それとなく告白するのもアリだろうか、まだ早いだろうか。女扱いされるのは嫌いみたいだし、どうやって攻めるかが難しいってのもあるんだよな。その為にはクジで俊と同じ班を引き当てるしか……。
「おい竜二! ここはお前が入ってこないとおわんねーぞ!」
「あ? あーごめん俊に見とれた、俺が入れるし、なんなら入れてもらうから」
「ヒュー! つか竜二の入れちゃったら尻ぶっ壊れそう」
「竜二のでけーもんな」
「は? 俺のクララは勃っても素直で行儀いいから大丈夫だし」
「俺のクララとか! まじウケる! オヤジか!」
「はいはいうるせー猿共! さっさとクジ引け! クララは座れ!」
「クララは座れとか! 笑うんだけど!」
俊は強引に廊下側の最前列からクジの入った箱を回す。仕方なくというか、回ってくると何だかんだ言いながら皆が素直に取る。
ただ、取って4つ折りにされたクジの紙を開いた奴から順番に笑って吹きだし、他の奴のクジと見比べ合ってる……のはなんでだ?
と思ったその答えは、2分くらいして自分がクジを引いてから分かった。
「ち、チンパン?」
そう、クジにはしっかりと「チンパン」と書かれてあった。これには俺も思わずクスっと笑いが出る。
これは俊の字だ、きっと誰にもバレないように全員のクジを作ったのだろう。このチンパンというのは、もしかして班分けの名前か? 何を思ってのチンパンなのか。チンパンジー?
ああ、さっき猿共って言ったから猿の種類で分けたんだな。うん、なぜそこに行き着いたのか全然分からん。
「おい、竜二おまえ何だった?」
「チンパン」
「チンパンとか! マジウケるんだけど!」
「ジーまで書けや!」
「お前何だったんだよ」
「マナティー」
「マナティーの方が笑うだろ!!」
どんな基準で班の名前を考えたんだろうか、前の席の戸川はマナティーだったらしい。チンパン、マナティー、他の班は一体何だろうか。何人かは笑い過ぎて酸欠状態なのかピクピクしている。
もう、誰と一緒の班なのかを気にしてる奴などいない。おとなしい奴もうるさい奴も、前後左右の奴と一緒になって笑っている。
この雰囲気なら、よく分からない班名で一緒になったということだけで、仲良く過ごせるんじゃないだろうか。まさかここまで俊が考えていたのなら末恐ろしい。
「はい、それでは、同じワード同士で班を作って下さい! はい移動!」
6班全ての名前が分かる時が来た。俊は黒板にマルを描いて、その中に班名であろう、
「アホウドリ」
「チワワ」
「マナティー」
「チンパン」
「ぶた」
「家畜」
と順に書いていく。
所々で、家畜よりマシ、家畜よりマシという声が上がっている。そりゃそうだ、動物名ですらないし、投げやりにも程がある。
「何で俺達だけ家畜なんだよ」
「家畜って、インパクトやばいわ」
「インパクトよりセンス求めたいんだけど!」
「どれ1つとして班名でマシなのが無い件について」
「ちょっとこっちせめてチンパンジーって書いてくれよ、めっちゃ馬鹿にしてんじゃんチンパンって!」
「誰だあんな奴を委員長に推薦したのは」
「俺達だよ!」
「マジか、俺達最低だな」
はい動け~と大声を出す俊も、自分の班へと向かう。どこだろうか。あー自分のを最後に引いて、開いて自分で書いたくせに笑ってやんの。なんだくっそ、可愛いな。
出来れば同じ班がいいなと期待を込めて俊を見ていると、先に古賀っちと瀬戸、木村、長谷川が集まった。幸いみんなそれなりに仲がいい。古賀は俊の次くらいには仲がいいし、他の奴も時々集まるようなメンバーの中に大体いる。
見渡したところ他の班を見ても、特に構成に問題がありそうな班が無い。この班分けは概ね成功と言えるんじゃないだろうか。いや、そもそもこのクラスで互いに嫌うような奴はいない。
「俺らチンパンだってさ」
「もうやめれ、笑い過ぎて腹痛いんだから」
「家畜よりはマシ」
「だから言うなって!」
「よし、俺達仲良くチンパンだ」
「おぉ~、お前もチンパンか~!」
最後に俺達の班の席に座ったのは、俊だった。ああ神様、俺の日頃の行いが良いのでしょうか。くじ引きで俊と一緒の班になれるのはかなり嬉しい。
「俊もここか! これ、修学旅行が愛情旅行になっちゃうんじゃねーの?」
「愛情旅行ってなんだよ」
「大丈夫大丈夫、夜以外はみんなで行動するって」
「はい肉食獣~、ここチンパンの席なので出口はあちらですぅー」
「うるせーチンパンも肉食うだろ」
「え、食うの?」
「食わないっけ?」
「いや……食う、のか?」
「いや、わかんね、菜食主義かも」
長谷川に言われて考えてみたものの、お互いにチンパンジーが肉を食べるかどうかなんて考えた事が無い。正解が分からず悩んでいると、俊が「チンパンジーが悩んだところで大した答え出ないだろ」と言って席を立つ。
「はい、次の議題はどこを回るかです!」
俊は黒板に6つの観光名所を記した。
そのどこに行くかは面倒なので代表者がジャンケンだ! というと、各班から1人が選出されて前に出る。俺達の班は俊が代表となり、ジャンケンで2番だった「チンパン」は、清水寺に必ず行くこと、そこをレポートにまとめる為に事前に予習しておくこと、と言われた。
どうやら各名所は離れたところにあって、1日で指定されたところを6カ所回るのは時間的に厳しいらしい。なので各班に必ず行くところを1つ決めさせるという訳だ。そしてクラスで6つの名所をレポートにするんだと。
成程、最初に俊が言っていたのはそういうことか。
「はい、では残り時間で地図とバスの時刻表を見ながら予定を立てて下さい!」
* * * * * * * * *
修学旅行までの1か月で、旅のしおりを作る、具体的なルートを決める、そして行動計画を担任に提出する……。授業が終わった後、放課後に結構時間を取られながらも各班は準備を進め、無事に当日を迎える事が出来た。
ちなみに、俊が後で各班で班名を変えてもらおうと考えていたのに対し、山センがそのままさっさと学年主任に提出してしまったため、普通科2年D組は他クラスと比べてもやや異質な班名になっている。
何も問題にならなかったんだろうか。
まあ、他の特進や工業科クラスの班も、全部まともかと言えばそうじゃない。
「修学旅行研究会」
「ウォーキング」
「古都歩こう会」
なんて地味な班名のところが多くを占める中、うちのクラスよりもキラリと光る、
「3年A組白髪先生はあの人」
「おまわりさんわたしです」
「我、迷子」
「卍」
なんていう馬鹿丸出しの班名もある。いや、マジで先生が止めろよ。
「マジで普通科の班名ヤバいだろ」
「豚って何だよ!」
「チンパンとか咄嗟に言われたら噴くわ」
いや、卍に言われたくねえ。
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