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024 恋と恋敵と愛しいあいつ-04

 新幹線の中、他のお客さんがいない貸しきり状態の車内はうるさい。暴れまわってこそいないが、笑い声などは絶えない。京都までの数時間は完全な遠足気分だ。  そんな中、クラスの責任者として一番張り切るはずの俊は、今日はとても大人しい。 「俊、どうした? ……ああ、体調悪いのか」 「ああ、ちょっと悪い、窓際の席貰っていい?」 「いいよ、俺通路側座ってやるから何かあったら言って」  俊は時々体調を崩す。寝込むとか発熱するという訳ではなくて、とてもダルそうにして、時々腹も痛そうだ。  本人は軽い持病だというけれど、変な病気じゃないだろうかと心配になる。うちの父親を見ているから、余計に他人の体調には敏感かもしれない。  窓際で外の景色を見ることも無く静かに目を閉じてぐったりしている俊を、本当の恋人なら自分へと引き寄せて、膝まくらでもしてあげられるのに。 「……なに?」 「え、ああ……いや、やっぱ心配だし、なんとなく。楽な姿勢になりたかったら俺の方寄りかかってもいいし。俺も寝る」 「あー、ほんとごめん、ちょっと体倒したいんだ、肩借りる」 「いいよ、調子悪い時くらい頼れって」  俊が目を閉じて休んでいる姿を、可愛いな、綺麗な寝顔だなと眺めていたら、視線に気づかれた。やや不機嫌そうに聞こえる声は、きっと辛いせいだと思って楽な姿勢になれというと、俊は大人しく従ってくれた。  お前が無防備に体を預けてる相手は、今にもお前を食ってしまいたいと心の中で吠えてる男だ……ということを、絶対分かってない。  寝息は立てていないけど、もうちょっとしっかりと寄ってくれたらいいのに。願望を抑えきれず、俺は右腕をそっと俊を抱きこむように回した。俊は何も言ってこない。俺の隣にいることを心地いいと思ってくれているんだろうか。  ふと気が付くと、俺達は最初の駅を過ぎた頃から京都の手前まで、ずっと眠っていた。  京都に着くと駅前で観光バスへと案内された。すみません観光客のみなさん。ウキーウキーと言っている高校生を、どうか白い目で見て下さい。  京都タワーが見えるロータリーの近くでバスに乗り込み、重い荷物を置く。7クラスが集団で歩くと他の観光客にも迷惑だろうという事で、バスに荷物を置き、そのまま月並みに京都タワーへと向かう組、水族館へと向かう組、そしてバスで美術館へと向かう組に分かれる。  あまり時間がないせいで滞在時間は少ないが、どこも簡単にパパッと回れるらしい。  俺達は第一希望を水族館にしたが、山センが各組の希望を踏まえたジャンケンに負け、美術館に行くこととなった。美術館に行くのは1クラスだけ。要するに男子高校生的にはハズレコースなのだ。  他は京都タワーと水族館。この後他のクラスに会うのはホテルの食事の時になる。 「山センがジャンケンに負けるからなぁ」 「あーあ、俺達に芸術とかわかんねーし」 「うっせー、お前らみたいな猿にも教養が必要なんだよ、絵でも見て感性高めろ。タワーの上からじゃ女の子のパンツは見えねえぞ? それとも美味そうな魚を野郎だけで見てはしゃぐか? 美術館が一番勉強っぽいだろうが、猿ども」 「ウキー!!」 「キー! キー!」 「バーナーナ! バーナーナ!」 「Hey! バーナーナ! バーナーナ!」 「はっはっは!」  急にマイクを通した笑い声が聞こえる。あっ、という声と共に消えたその声は運転手のおっさんのものだ。どうやら「本日より5日間、みなさまの旅行をご案内する……」という挨拶のあと、口元に着けたマイクを切り忘れたらしい。 「運転手さんマイクマイク!」 「Hey! マーイーク! マーイーク!」  山センは、すみませんね、ウチのクラスは5日間ずっとこんな調子だと思います、と謝っている。  運転手さんはもう開き直ったのか、マイクが入ったままで「こんなに楽しそうなクラスを担当するのは久しぶりですよ、普通は最初シーンとして、最後になるにつれてガヤガヤとしだすんです」という。  甘い。うちのクラスもこんなの序の口だ。 「俊、大丈夫か? 美術館すぐ着くぞ」 「あー、大丈夫。俺、感性高いチンパンジーだから美術館は楽しみ」 「ならいいけど。俺は夜だけオオカミだから宜しく」 「他の学校の女子んトコに夜這いとかすんなよ、マジ謹慎になる」 「しないって! 俊を置いてどこにも行かないし」 「美侑ちゃんとどうせ夜に長電話するんだろ」  美侑ちゃんというのは、俺の彼女……だった奴だ、つい最近まで。  頭の中が俊の事で限界で今にも俊を襲いそうだったから、告白されたし付き合ったんだ。でも、何もかも俺が決めて欲しいみたいな面倒臭いところが、次第にストレスになってきて。  そこまで好きになることも出来ず、俊の代わりに庇護欲と性欲を発散する事も出来なかった俺は別れを告げた。  というか、ひょっとして俊の事を好きだという気持ちは、友達って関係をこじらせてしまっただけで、彼女が出来たら気持ちがおさまるかもしれないという、甘い考えがあったから付き合ってみたというのもある。  こんな事を繰り返すから、仲間内では非情だとか、ヤリチンだとかって言われるんだ。分かってる。  そんな感じで転校してきてから5人くらい付き合ったけど、結局誰も俊の存在に勝ってはくれなかった。これ、俺のせいじゃないよな。俊が可愛すぎるせいじゃん。めっちゃ好きにさせてくるの俊じゃん。  ……やっぱり俺は母親が言う通り、自分から好きにならないと駄目みたいだ。んで、好きになったらなったで執着心が凄いみたい。まさか自分がこんなに恋愛事にハマるとは思ってなかった。    誤解の無いように言っておくと、今までも別れる時は双方納得した上で別れてたんだ。  直近の美侑も泣いていたけど、俺の気持ちがそこまで傾いてなかった事や、それの原因が数回しかエッチしてない事、何でも俺が引っ張らなきゃ駄目みたいな所にあるというのは分かっていたらしい。向こうも別れると決め、きちんと別れたつもりだ。  1週間も経ってないないから、俊にはまだ別れた事を言ってなかったんだっけ。こんな無意味な付き合いなんて、俊が俺の彼女になってくれたら終わる話なんだけどな。あー、俊とセックスしたい。 「あー……ごめん、言ってなかった。俺、あいつと別れたから。やっぱ俺、自分から好きになれる人じゃないとダメかも」 「は? 早過ぎじゃん! 自分からって、竜二のタイプってそんな高すぎるん? まあ、見た目への要求はちょっと高そうだけど」 「ん~、可愛いというか綺麗で、俺より小柄で、性格はちょっと勝気がいいかな。そして目を離すと居なくなるから俺が追っかけたくなる感じ」  つまり俊、お前だよ。 「いや、まあそりゃ、そうだけど」 「あーいや、無理に作らなくていいよ! せっかく男子校だし、やっぱ普通につるんで遊び倒したいじゃん?」 「彼女出来ては別れを繰り返してるの誰だっけ」 「分かった! 今日から俊一筋で彼女はもう作りません!」 「不毛な奴……」  俊は黙っていれば好青年で、綺麗な顔はもちろん、姿勢もいいし礼儀も正しい。女の子からも結構人気があるのは俺も知ってる。  俺狙いの女からすれば四六時中一緒にいる俊は目障りな存在なんだろけど、俺と一緒にいる時の俊の事を、「やーん可愛い!」と萌えている女子とも会ったことがある。  俊の知らない所で、実は王子様のような存在になってる。  それくらい俊はモテるのに、彼女を作ったことはないんだ。理由はいつも教えてくれない。もしかしたらホモなのかも? と思う時もあるけど、そういう確信も持てない。

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