25 / 32

025 恋と恋敵と愛しいあいつ-05

 いっそホモだったらいいのに。俺って結構良物件じゃん。ガチムチな奴とか、そういうのが好みだったらどうしようもないけど。  バスは少し進んでは止まりを繰り返す。殆どの奴が初めての京都だから、窓に張り付くようにして見えたものを逐一報告し合っている。車内はとにかくうるさい。 「えっ鴨川って書いてる! え、俺の想像してた鴨川と違う!」 「普通の川じゃね? てか地図だと上流が賀茂川になってね?」 「でも『鴨川』って書いてるじゃん? 俺めっちゃ川幅狭くて両岸に和服着た人ととか歩いてて、鴨だか白鳥だかが泳いでてみんなが餌やってるイメージだった」 「そこまで具体的に想像しといて何で調べなかったんだよ」 「だって信じてたし! あ、寺! 寺の屋根見えた!」 「うわ、やべー、寺じゃん!」 「ばーか神社って書いてんだろ」  俺も、ただの川ひとつで騒ぎたくなる気持ちは良く分かる。俊だってきっと元気だったら騒いでただろうな。 「八坂神社! センセ、明日俺達の班が行くとこってここ?」 「そうだ、八坂神社組は場所覚えとけよ」  やがて美術館に着くと、自由行動になる。約1時間、喫煙と騒ぐ事以外なら自由! と言って、山センは自分だけさっさと入場を済ませる。  クラスの全員がその後に続く中、「チンパン」の5人は、俊の体調を心配して少し遅れて中へと入った。 「委員長、だいじょぶ?」 「俺は大丈夫、どうせ中入ったらしゃべれねーし、先見てていいよ」 「竜二は?」 「あー、俊とちょっと休憩しとこうかな、心配だし」  多分、今日の俊は大丈夫じゃない。お腹が痛そうだし、覇気もない。時々顔が歪むのを見ていたら、俺が何か出来るんなら何でもしてやりたいって気持ちになる。  俊と後でゆっくり追いつくと言おうとすると、ふと古賀っちが、俺が見ててやるから竜二は行って来い、と言いだした。 「新幹線の中もさ、バスん時もさ、俊の事見ててくれただろ。この美術館の時間は俺が一緒にいるから、お前はちゃんと楽しんで来い」 「え、ああ、でも」  仕方なく付き添ってた訳じゃなくて、芸術なんかより俊の事見てた方が幸せだから一緒にいたいんだけど。でも、今は彼氏役の設定で話をしても、本気で気遣ってくれてる古賀っちには通用しそうもない。  ここは諦めて俊の事をお願いするしかないと思っていたら、俊がそのどちらも蹴ってしまった。 「竜二、俺の事はいいよ。古賀っちも、竜二連れて行ってきて。俺のせいで美術館回れないとか、流石に申し訳なさ過ぎてキツイ」 「……分かった、じゃあ少し気分が良くなったら出口んとこに待ってて、そんな時間はかからないと思う」 「わりい、そうする。じゃあ、後でな」  顔色の悪い俊は、俺達チンパンの班員以外の前では元気なフリをする。山センも気づいていない。今日1日で体調が戻ればいいけど、いつもいったん悪くなると2日くらいはその状態が続いてる気がする。  明日の班行動も、もしかしたら俊にはキツイかもしれない。 「なあ、竜二」 「ん?」 「お前、ほんと俊のことばっか考えてるよな」 「あー、いや、そういう訳じゃないんだけど、あいつだけ修学旅行楽しめないのかな~って、可哀想だと思って」  長谷川たちが先に行き、俺と古賀っちは遅れて絵や陶器などを見て回る。なんとなくしかそれらの美術品を見ていない俺を見て、古賀っちは俺が俊の事を考えていると分かったようだ。 「俺さ、こんな所でほんとは言うつもりなかったんだけどさ」 「ん?」 「その、竜二がちょっと羨ましいって思う時がある」 「羨ましい? 何が?」  話の流れとして、羨ましいという言葉が何に掛かっているのかが分からない。言うつもりが無かった、というのはあまり良くない事なんだろうか。  イケメンいじりは慣れたけど、仲のいいダチにそれをもしイケメンのくせにみたいな感じで言われたら、俺は結構凹む。  そんなことを一瞬考えていると、古賀っちはそのまま言葉を続けた。 「好きなんだよね」 「え? え? 何が」 「俺、俊の事、好きなんだ」 「え、え!? マジで!?」 「こんな事、冗談で言えねえよ。1年の時から好きだった」 「そ、そうか……気づかなかった」  いや、気づかなかったというのは嘘だ。このタイミングでそれを言うのか、というのが正直な気持ち。もしかしたら、と思った事は何度かある。  俺と俊がじゃれ合ってる時、ずるいぞという視線を送られることがあった。最初はふざけ過ぎだと咎めるような視線かと思っていたけれど、なんとなく悔しそうな目にも見えた。  それを全く口に出さずに平然として一緒につるむのは、俊の事を好きだという気持ちを悟られないようにするためだったのだと、納得がいった。 「俺、だから分かるんだ」 「え、何か?」 「竜二も、俊の事、好きなんだろ」 「いや、え、これは……どう、答えるべき?」  ああ、バレてたのは俺の方なのか。上手く「彼氏役」を隠れ蓑にしてやり過ごせてたつもりだったんだけど。俊のことを好きなもの同士、感付いてしまうものなのか。 「いいよ、別に言いふらす訳でもないし。もし竜二が俊に恋愛感情無いっていうなら、俺、この修学旅行で告白する。付き合ってくれって頼むつもりだから」 「ダメ! 駄目だ」 「なんで?」  咄嗟に、古賀に駄目と言ってしまった。もう嘘はつけない。俊に知られる前に、まさか古賀っちに暴かれるなんて思ってなかった。しかも、ライバル宣言してくるとか、さすがに読めない。  展示ケースに入っている良く分からない仏像まで、俺に「知ってますよ」という目をしているように見える。 「俺も……俺も、転校してきた日からずっと俊の事が好きだったから」 「やっぱり。告白するチャンスは今まであったんだろ?」 「それはお互い様だろ。仲が悪くなるのは絶対に嫌なんだ。男子校を言い訳にもしない。こんなに好きになったのはあいつが初めて」 「俺は竜二が転校してきて焦ったよ。俊とどんどん仲良くなるし、本当に付き合いだすんじゃないかって」 「悪いけど、彼氏役は譲らないからな」  古賀は友達がライバルだからと、こうして気を使ってくれたんだ。  古賀の、そんな性格の良さや誠実なところが周りのダチには評価されてる。きっと、俊もそう思ってるだろう。恥ずかしい話、俺は古賀が俊を好きと知っていたら、先に告白していただろう。  思えば俺には見た目以外の取り柄が無い。気に入られたいという思いが結局見た目や計算高い行動だけに向かい、内面を磨くという事をすっかり忘れていたんだ。 「俺に勝ち目があるとは思ってないんだ、だけど言っておきたかった」 「抜け駆けは無し、って受け取っていいのか?」 「そうだな、同時に牽制でもある」 「俺にわざわざ言ってくれた気持ちは十分理解してる。ライバル宣言、確かに受け取った。でも、お願いがあるんだ」 「何? 先に告白するのを譲れとか、そういうのは駄目だからな」 「違う違う、俺、もし……」 「おい、竜二、古賀っち、見終わったら班別に集合って、あと残ってんのお前らだけ」 「え! マジか!」  俺と古賀っちはいったん話を中断し、早足で皆の集合場所へと向かった。でも美術館を出発するまでは1時間もある。内緒で平安神宮に行こうぜという声も上がってる……ったくチンパン共は。 「俊、今日と明日くらいは無理すんな。古賀っち悪い、俊と居て。俊、今日お前仕切れねえだろうから、俺が代わる。明日から頑張れ」 「マジ助かる、明日なんかお土産一個おごるわ」 「お気持ちだけで十分です」

ともだちにシェアしよう!