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026 恋と恋敵と愛しいあいつ-06

 多分、さっきの話の感じだと古賀は抜け駆けはしなし、俊を蔑ろにしない。俊を任せるとすれば適任とも言える。  恩を売るとかそういうつもりでは無くて、ある意味これは俊を大切にするという協定だ。  どうせ、2人共このまま告白したところで撃沈は決まっている。「気持ちは分かるけど、ごめんなさい」なら御の字。  最悪の場合「俺の事をそんな目で見てたのか、最低だな」とも言われかねない。  俺は山センのもとへ行き、俊の代わりに今日1日は学級委員代行を務めることを伝える。山センも俊が体調悪そうにしてるのは分かっていたので、じゃあ今日は任せる、と言ってくれた。  * * * * * * * * * 「って話だったんだよ」 「今更ながら、古賀っちとそういう話してたって聞くと生々しいな」 「いや、ほんと俺達すっげー悩んでたんだからな」  3児の母になった俊の事を、幸い周囲は理解してくれている。でも子供たちはそういう事に敏感だから、幼稚園では指摘してくる子もいた。  そのせいか、俊はメンズの服でも中性的な格好をよくするようになった。しかしそれがまた可愛い。  男の娘とかの話題に「リアル男の娘」の俺の方が可愛いよな? って聞いてくる辺り、ちょっと対抗意識を燃やしている感じもある。  ところで、今日は俺と俊、そして子供たちは皆で一緒に京都旅行をしている。3連休のうちの2日を使って、1泊2日の小旅行だ。目の前には平安神宮の大きな鳥居がある。 「ただいまー」 「あ、帰って来た、おかえり、どうだった?」 「たのしかった! 古賀っち兄ちゃん機関車乗らせてくれた!」 「そっか、よかったなー」  息子の玲士玲士(れいし)歳士(さいし)紅士(こうし)が戻ってきた。それと友達も。まあ、ここで言う友達というのはチビ達のじゃなくて、俺と俊の友達なんだけど。そう、古賀っちだ。 「よう、玲士と歳士と紅士返しに来たぞ」 「有難う。悪かったな、俺が行けたらよかったんだけど」 「流石に妊婦連れて騒ぎに行く訳にもいかねーだろ? うちの勇太もはしゃぎたかったみたいだし、ちょうど良かったわ」  古賀っちは今も俺と俊の一番の友達だ。奥さんとは本当に仲が良くて、子供は男の子1人。もうすぐ2人目が生まれるから、奥さんは実家に帰ってる。互いに色々と頼り合って、家族ぐるみの付き合いってやつ。  これは俊の事でお互いに色々と腹を割って話せたおかげなのだろうと、俺は思ってる。  今も、古賀っちはお互いの子供を一気に引き受けて、目の前の動物園へ連れて行ってくれたんだ。俺と俊は、美術館と平安神宮に。どちらも修学旅行で中を見て回らなかったから、俊にとっては初めてみたいなもんだ。 「腹は大丈夫なのか? 見て分かるくらい出てきたよな」 「4人目だし、無理してないから平気。ゆるゆるのズボンも慣れたわ。最近スカートもいける」 「ははは! そうかそうか、可愛い可愛い」 「お前まで……可愛い禁止。俺はカッコイイもんなー?」 「ママかわいい!」 「カッコイイだろ」 「やー! かわいい!」 「かっこぃママしゅき!」 「あ~! 俺も紅士くんすきだよ~!」  このやり取り、他人から見たらどう映るんだろう。 「勇太、勇太も紅士みたいに『パパすき~』ってしてくれよ」 「……パパ、しゅき」 「俺も勇太すきだぞ~!」 「親バカか」  保育士だからなのか、面倒見が良くてうちの子も懐いている。こうして一緒にいても、子供たちは緊張もしない。 「そういえば俊のお腹の子、どっちか分かったのか?」 「男。紅士が俊の腹触った瞬間『おとーとはやくでてこないかな』って言ったから、あーこれはと思ったらやっぱり男だった」 「それ、歳士がお腹にいる時も玲士が同じこと言ったんだろ?」 「そ。だからもう結果聞く前から男だろうなと思ってた」 「今の所男だらけか。うちもそっちも落ち着いたらさ、今度また合同で旅行行こうぜ」 「いいね、何処行こうか」 「そりゃもちろん、次は修学旅行リベンジ第2弾で奈良っしょ。俺、お前の事で竜二と語り過ぎて温泉でのぼせたんだぜ」 「それ、さっき竜二からも聞いたよ。ほんと俺そういうの気づいてなかったからなあ」 「はっはっは! そういう話をまたみんなで酒飲みながらしようぜ」  両性具有者として生まれ、男らしさというものにしがみついて生きてきた俊と、俊の事を男として見ながらも惹かれた俺達。  こうして俊の前で、当時の事をネタに出来るようになるとは思わなかった……ってのは古賀っちが言った言葉。俺達の一番の理解者で、心からの親友だ。  俊を孕ませてしまった時も、教室で結婚式の真似事した時も、玲士が生まれる時も、保育園の手続きの時も、何もかも世話になった。  いつか、俺が古賀っちを助ける日は来るのだろうか。 「竜二は俊の浴衣から覗く乳く……」 「おいやめろ! それは流石に言ってない!」 「え? なに?」 「いやこいつさ、俊が浴衣着たら……」 「言わなくていい!」 「浴衣のはだけ気味な胸元から、お前の乳首がチラ見出来るシチュエーションが最高って興奮してたんだぜ」 「あー! お前だってそれいいなって言っただろあの時!」  前言撤回! 助けてなんかやらねー! 「玲士、こういうお父さんの事、何て言うんだっけ」 「へへへ、エロおやじ!」 「ちょっと俊、なんて言葉教えてんだよ……」 「おい竜二、古賀っち、そろそろ新幹線の時間」 「あ、もう戻らないといけないか。じゃあみんな帰るぞ」 「こーしのとことまる!」 「今日は駄目、また今度な」 「やー! とまる!」  勇太くんとうちの紅士は、だいたいどちらも一度会わせると帰りたがらないんだ。 「ゆっくりしていけよ、明日の朝ごはんもある。お義母さんが今日の夜、魚くれるって」 「あーそういえば言ってたな。何にする? 俺が作ってもいいし」 「いや、もう決めてある。秋刀魚の竜田揚げ。鯖は買ってなかったって」  恋敵には確かに勝った。俺は今、誰より幸せだ。俊とは仲もいいし体の相性もいい。 「そうそう、もっと高校の時の暴露話してくれよ。竜二たぶん自分の恥ずかしい話ぜってー隠してる」 「お? マジか、じゃあこいつがプールの授業の時に」  だけど何故だろう、時々こうやって俺が今更「参りました」と言わなければならない時が来る。きっと、腹を割って話しすぎた。割り過ぎて多分切腹になってしまってる。  こうやって過去の俺の恥ずかしい話をする時ばかりは、俊と古賀っちのタッグが最強だと認めざるを得ない。 「あー! 駄目! マジ駄目! ほんとお願い、マジ言わないでくれ!」  ああ、こうやって語ってる場合じゃない。古賀っちの口を塞がなければ。こっちは切腹したんだぞ。そっちは窒息するべきだ。  とにかく、俺は俊と幸せに暮らし、恋敵とも仲良くつるんでる。その事だけ報告しておく。 「パンツを~」 「やめろーーー!」  それじゃあ、またいつか!

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