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残酷な天使のアンチテーゼ p02

   出来上がったフライヤーを、何人かが手分けして廊下に貼っていく。並んでいる客が「わはは!」と笑っているのは、多分那珂川の事だろう。今廊下に貼り出している奴の事じゃないと思う。    フライヤーに映っていない残りの3人も、俺からすれば見た目は完成度高いと思うから。  あ、これだけ言っておきたいんだけど、別に女顔なの俺だけじゃねえから! むしろこいつの方が女っぽいじゃん! って奴いるからな。 「コイツやべえ! 何? マジこんなの中に居んの? ウケんだけど!」 「インパクトすげえわ、今日の出店の一位ここで決まりだろ、ここだけヤバいもん」 「この子、カッコイイ! ねえ、カッコイイよね!?」 「あたし去年も来たけど、ほんとカッコイイから! あとこっちの子、信じられないくらい可愛いから!」 「あーもう、今年も妄想がはかどるー!」  フライヤーだけで客のテンションが上がっているらしい。優秀出店に、まずは順調。それに、クラスの皆もテンションが上がっている。 「おい、女子の声が聞こえる!」 「女子ぃ!?」 「あー俺もフロア出たい! 女子とお喋りしたい! こんな偽物女子じゃなくて本物女子とお喋りしたい!」 「……オンナ、オシャベリ、シタイ。オレ、オシャベリ、シアワセ」 「そこの偽物女子と喋って落ち着け童貞! 本物女子とじゃ、お前ド緊張で喋れねえじゃん」 「うるせー、偽物女子って言うな! 小道具係は他店の偵察頼んだぞ、ほら、人間看板組、さっさと廊下出て呼び込みの準備!」 「ド緊ちゃん……ププッ」 「黙れ粗チンちゃん」 「うるせーお前ら! さっさと持ち場に付け! お前らの小さな息子さん養子に出すぞ!」  一応は委員長だから、みんなに指示を出して、俺は竜二と一緒に教室の真ん中に立つ。執事役が1人、正統派メイドの1人が入り口に立ち、客を出迎える。   執事役の古賀っちともう1人のメイドは、接客とテーブルへの案内がメインだ。メイドはどちらもそれなりのメイクとカツラで女子に寄せていて、行ける所まで裏声でいけと伝えている。  他の学校の文化祭がどうなのかは知らないけど、うちの文化祭は「売上」と「客数」を調べて、更に若干の客単価も考慮されて勝負が決まる。お客は帰りがけに校門で寄った出店で押されたスタンプ帳を回収されるんだ。  正直、その点数割合については、この学校の7不思議の1つとされるくらい定かじゃない。まあ「とにかく売れ」ということだ。 『10時30分になりました。各クラスは出店を始めて下さい。なお、人気の店は予約を取るなどして、混雑の緩和にご協力ください』  校内放送が流れ、各クラスが一斉に出店を始める。 「よし! 開けろ!」  * * * * * * * * * 「俊、ご指名。ラフレシア席ね」 「はいよー」 「那珂川、ドクダミ席」 「ハァイ、かしこまり!」 「あのメイドやべえ! ハァイじゃねえし」  10時30分から始まったメイド&執事喫茶は、予約だけで午前の部が埋まるほどの大盛況。1年、2年の時と比べて明らかに客が多い。女性客が7割、男性客3割ってとこ。面白いのは、竜二一択になるかと思いきや、古賀っち、那珂川の人気も高いこと。  残念なお知らせをすると、一番人気は俺。テーブル5つで、2人常に案内に回る感じなんだけど、大体俺達4人は接客してる。 「坊ちゃん、おかえり。何か飲むの?」 「え、やべえ、何? めっちゃ可愛いんだけど! え、待って、めっちゃ可愛いじゃん!」 「男? マジ男? え、女子?」 「坊ちゃん早く頼んで、私、忙しいんだから」 「ツンがいちいち可愛いわ! 一回、一回可愛くお願いして、ね? マジ、わかるっしょ、可愛く! スマイル、メニューにもあるじゃん!」 「え、マジ男? ねえ、マジで男なの? 俺、そのバズーカで撃たれたいわ」  俺を指名する奴は、今接客しているような、男の女装を怖いもの見たさで覗きに来た男のグループか、女性グループの「今年も来ちゃいました!」ってタイプ。正直、後者の方が接客しやすい。  男のグループのほうは、もうほぼ完全に「きもちわりー」と言いに来てる。でも、それは既に過去2年でリサーチ済み。3年目は、接客だけでも完成度の高さで行く、そうクラスで決めている。嫌々やっているメイド姿ではあっても、クラスの出し物をぶち壊しにはできない。 「……そんな事言ってないで、早く頼んで欲しいな、坊ちゃん。お出かけまであと10分ちょっとしかないんだから」  あー俺も執事やりたかった。こういう時くらい、カッコイイって言われたいよ。竜二なんて、男グループの指名0、全部女だぞ。 「ヒュー! 可愛い! 一緒並んで写真撮ってもいいっすか?」 「ポラロイド限定だけど、帰りがけに渡すから。お出かけの間、大切にしてねっ」 「はーい!」  1テーブル15分。予約制に切り替わったから、時間は限られる。時々、ちょっと寂しそうに話をしたりして、すぐにメニューを頼ませないと。愛想よく乗せないとまわせない。 「んで坊ちゃん、何を用意しようか、時間大丈夫?」 「あっ、頼む頼む! えっと、コーヒーブラック、ホットで、お前は?」 「男ならミルク一択!」 「俺、アプリコットティー、スマイル付き」  開始1時間で早くもスマイルが完売しそうな俺の気持ちなんか、客は絶対知らない。竜二は相変わらず女子の接客、スマイルは全然崩れてない。那珂川は「当店のナンバーワンですぅ」と言いつつ、頼まれてもいないのに、強引にポテトチップスを売りつけ、トングで食べさせている。  フロアの中に暇してる奴は誰一人いない。次の予約時間の客の、前の客に対する早く帰れって視線が怖い。竜二が執事っぽい白の手袋をはめて、クッキーを女子に食べさせている場面を見れば、待っている女子が「いいなぁー」とため息。 「ね? 言ったでしょ? 去年来てめちゃくちゃ良かったって」 「3年生ってことは、今年で最後って事でしょ? えーうそー、このままお店してくれないかなぁ」 「お嬢様の思い出の1つとなれるなら、それで十分光栄なことで御座います」 「えっ、ちょっとマジ執事、本格的! やっば、マジカッコイイ」  騒ぐのも分かる。俺から見ても竜二の執事姿は凛とした佇まいで、少し控えめな笑顔の作り方とか、本物がどうかは分かんないけど、理想の執事像そのままだ。医者になるとか言ってたけど、あいつの天職は執事かもしれない。問題は日本の中で執事としての就職先があるかだ。  いいなあと思わず見とれていると、竜二と目が会う。悔しいけど、あんな男だったらと憧れずにはいられない。そんな気持ちを悟られたのか、竜二が少し微笑み、優しい表情を作る。 「ほら、坊ちゃま達がお待ちですよ、きちんとお世話して差し上げるように。しっかりおやりなさい」 「え、あっ、はい、申し訳御座いません」  クソッ、何気にさらっと俺への注意まで執事になりきるんじゃねえよ。あー悔しい、嫌だなとか思ってる自分がなんか情けなくなってきた。竜二は竜二なりに真剣に、学食タダ券のために全力で頑張ってるんだよな。  中途半端にやってたら一番情けない。可愛くもないし、ネタにも見えない。可愛いって言われるのはもう1年、2年で経験済み。だったら可愛さで売上稼いでやる。 「それじゃあ、坊ちゃま達のお飲み物、ブチかましてくるけど……お腹すいてないの? 私、気利かせて持ってきたりしないからね」 「別にまあ……」 「この後他の店回るし……」 「えっ……もしかして、私が出すものなんて食べたくない……?」 「分かった、分かった! ポテトチップス頼むわ」 「よかった、ありがと。さあラフレシア席、坊ちゃんにお飲み物とお食事をご用意して差し上げて!」 「はい、畏まりました」  オーダーを貰うと、都度皆で「畏まりました」と言う。那珂川は「かしこまりっ」だけど。  ブースの裏の飲み物と食べ物の係りがすぐに用意し、俺が受け取りに行く。その際に俺がバズーカを片手にくるりとその場で一回転し、ふわりとスカートが舞うと、ノリの良い客が「ヒュー」と言ってくれる。  オーダーへのサービスだ。 「もう一回転、パンツ見えてない!」 「おい、一応男だぞ」 「それでもいい、ガーターベルト! パンツ!」  いやいや、男のパンツ見て何が嬉しいんだっての。女には絶対言えないだろうに、ほんと男相手だとセクハラ容赦ないよな。

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