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第182話

あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その35 物音で目が覚めた。クッションに頭をつけ目には濡れたタオルが被さっている。片手でそれを取り、怠く節々が酷く痛んでいる身体を起こすと頭が殴られるように揺らいだ。 起きた俺に気がついたのか、寄って来たのはジュンヤと神崎さんの2人だった。 「 どうですか?」 神崎さんが俺の前のテーブルに 「 水ですから 」とグラスを置く。 「 有難う」と神崎さんに礼を言いながら目を上げると、ジュンヤが俺の前に革靴を揃えた。 「 立てる?」 そう言われれば立つのは意地だ。 グラスの水を飲み干した後、 ゆっくりと革靴に足を入れた時に鈍い痛みがあるのはひねったせいかもしれない。 鉛を背負ったように重たい身体をなんとか立たせると、 「 タクシー止めましたから 」 と渋谷君が店に繋がる扉から顔を覗かせた。 立ち上がった俺を神崎さんが支えようとするのを手を挙げて断り、 ただ 「 すまなかった、今夜はこれで、 また改めて 」 というと、 「 こちらこそ店の騒動に巻き込んで申し訳ありませんでした 」 と律儀に頭を下げられた。 ジュンヤは立てる?と発した後一言も言わない。表情こそ硬いがそのガラスの玉のように色彩の薄い瞳は何かを言いたげに揺れている。 不安定なその姿に抱きしめてキスをしてやりたいと思った俺は、 キスと言えばとあいつを思い出した。 「 潤は?」 と聞くとジュンヤは急に苛立ちを露わにした。 「 いいから!送ってく!」 吐きだした言葉と共にドアを派手に閉め事務所から出て行った。 その剣幕にびっくりした表情を一瞬浮かべた渋谷君が、 「 店の前にタクシー待たせてますからこっちから出てください 」 開けたドアから見える店内は照明こそ明々と灯っていたが全く無人で先程までの賑わいが嘘のような姿をしていた。 「 悪いな、閉店まで居座って 」 「 大丈夫です。お客さんたちは店の外での騒動は全く気づかなかったから 」 とニッコリとする。その言葉にホッとしながら外に出るとジュンヤがタクシーの前で待っていた。 俺から顔を背けて、拗ねているのか? それとも不安なのか? そんな顔を見せるのは俺のせいか? 殴り合いの名残は重く下半身に貯まる。 興奮した衝動が目の前の可愛い生き物を犯したいと騒ぎだした。

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