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第196話

あの頃の気持ちに(ジュンヤ) その49 「 よお、元気か?」 挨拶の代わりに腕を軽く上げる。 久しぶりに菅山の声を聞いた。 「 随分急だな」 「 なんか無理させたか?」 「 いいや、今日は偶然に外に用があって直帰できたから問題ない 」 俺はバックドアで待ち合わせをするよりその前に少し近況でも話しとこうかとホテルのラウンジに菅山を呼び出した。 だが、こんなオヤジになっては友にあからさまに色んなことは喋りにくい。 暫くさしさわりのないことをあれこれ話しているうちに、菅山の方がジュンヤのことを喋り出した。 「 なんで知ってるんだ?」 「 俺は時々あそこでドラムを叩かしてもらってる。ジュンヤ君ともその時に会うからな。雑談しているうちにそんな話があると彼が言ったんだよ 」 やはり俺の勘は当たるものだ。 このラウンジのコーヒーは大した味じゃないが益々その味が苦く感じる。 菅山はこういう時には気がきくやつで、黙った俺に、 知らなかったのか? なんて野暮な言葉はかけないし、 言わなきゃ良かったな、 なんて更に頭にくることも言うやつじゃない。 普段と変わらない表情をしていたつもりだが、やはりこいつにはバレているんだろう。少し困ったような顔をしたが後はまたお互い共通の知人の話をしてからバックドアに行くために俺は急に重たくなった腰を上げた。 店の前でちょうど三枝君と会った。俺には見せない善人面に変わった菅山に苦笑しながら、今夜は又三枝君でも弄って楽しむかと少し気分を持ち上げた。 店の方はまだ客の入りも六割くらいか、暗いステージを見ながら遠いヨーロッパの一国を思い出す。 いつ行ったっけ?この仕事をする前だから大分前だな。 注文は二人に任せてやはり思うのはさっき聞いたジュンヤの事柄だった。 まだ本決まりじゃないんだよな、でも菅山に言ったってことは…… 埒もないことをあれこれ考えている間に、目の前にはビールの小瓶が置かれる。 「 なんだ?今日はビールからか?」 「 お前生好きじゃないだろ、だから瓶頼んだよ 」 三人の前にはそれぞれ銘柄の違うビールの小瓶が置かれてる。 「 ビールの種類も多いですね 」 のんびりと話す三枝君に菅山がビールのうんちくをあれこれと語っている。 「 あれこれ言う割には菅山はバドワイザー好きだよな 」 茶々を入れると、 「 バドワイザーはジメジメした日本の暑さにはピッタリなんだぞ 」 と三枝君の前では張り切るのがおかしくて、まだこんな所を残している菅山が羨ましくもある。 俺には真っ黒な瓶の黒ビールが置かれてる。シュバルビールのケストリッツァーか。ドイツのビールは今一番飲みたくない気分なのに。 「 青木さんのは黒ビールなんですか?へえ、俺は苦手なんだけど 」 三枝君の前にはコロナがライム入りで置かれてる。彼が瓶に口をつけてゴクゴク飲む姿を見たいんだろうなと菅山のチョイスに笑ったが、当の三枝君は俺のビールに興味があるらしい。 「 飲んでみる?」 と俺が口をつけたグラスから彼も飲もうとしてる姿の背後で菅山が最高に嫌な顔をしていた。 ザマアミロ

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