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第197話
あの頃の気持ちに(ジュンヤ)
その50
暗くなったステージ、上がる人影に拍手が起きる。サックスのソロから始まったオリエンタルな香りがするバラード。
美しく音階が変わる、どこか南国の風が吹く曲。
多分これは、オキナワ。
珍しく曲の途中から拍手が大きくなる。
明るくなったステージには真ん中より少し右にジュンヤ。
今夜は紺のVネックのシャツに下はあっさりとした暗色のスラックスでいつもとはまるで人が違う様に落ち着いている。演奏するカルテットのメンバーもいつもと顔ぶれが異なる。
今夜はお客の層も少し違う気がする。
何日かですっかりバックドアー自体の店の色が変わってしまったのか。
「 違うな 」
「 ああ、違う 」
空になった瓶ビールのお代わりを頼む。つまみはチーズのプレッチェルで十分だ。
一曲目が終わると盛大な拍手が上がる。
ジュンヤがメンバー紹介をしていくと、もう店は一気にこのチームのものとなった。
オキナワの次はジュンヤのアレンジの曲が続く。
ブギー ストップ シャッフル 。
アレンジされたサックスのソロが長くイントロで吹かれる。
紺のVネックシャツは余計にジュンヤを細く見せるがサックスを持つ手は、とても節だかで大きく男の指だ。
長いソロのイントロから賑やかな演奏に入るとまた自然に指笛と拍手が沸き起こる。
今夜はやけに人々のノリがいい。
こんなことでジュンヤがドイツに行くんだってことを確認する。
今夜の選曲も完全にその意気込みが出ている選曲なんだろう。
思わず帰ろうかと思うくらいがっかりしている俺がいた。
それでもジュンヤの演奏は素晴らしい。目をつぶってリズムに身体を漬け込むと、ビールでも酷く酩酊しそうだ。
「 おい、ウィスキーに変えるか?」
すっかり黙ってしまった俺に菅山がやけに気を使う。
斜め前の三枝君の横顔にはステージの照明が映ってる。聞き惚れてるのが分かるその横顔。綺麗だ。
「 よし、今夜は飲むぞ 」
と彼に声をかけると、
え?という顔をしてこちらを振り向く。あぁ、こんな貌に菅山は惚れたんだなと思った。
ビールからウィスキーに替えて、次の曲、Nudnik ……鈍いやつ
俺のことか?
この曲までは何とか聞いた気がしたが、
気がついたら拍手も終わる頃。
ステージで手を上げて頭を軽く下げ挨拶しているジュンヤが見えた。
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