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第198話
あの頃の気持ちに(ジュンヤ)
その51
「 おい、演奏終わったぞ。お前どこまで聞いてた?」
菅山が苦笑しながら俺に声をかけると、隣の三枝君が水が入ったグラスを俺の前に置く。
水のグラスを置いた三枝君のその手を掴んだまま水を煽ると、菅山の文句が飛んできたがそれは耳を通り抜けて店の床に落ちていった。
お前は一生これに片思いしとけ、そんな言葉が酔った俺の頭から菅山のそれと一緒に転げ落ちる。
静かな足音に面を上げるとこちらにやってきたジュンヤが三枝君の横に腰掛ける。
その表情はやけに柔らかで俺にはもうジュンヤの決心に水を差すこともできないんだろうなと……
いやいや、そんなわけあるか。
どうして?急にか?それとも前から?
前からだったら俺に会う前か?あった後か?
聞く気満々な俺はもう一杯しっかり水を身体に入れるとジュンヤに向き直った。
「 ありがとうございます。来てくださったんですね 」
三枝君に穏やかに話しかけるジュンヤ。
「 すごい良かったですよ。俺はあんまりジャズは聞かないけど、とっても良かった。なんかおすすめのアルバムとか教えて貰えませんか?」
社交辞令なく尋ねる会話に菅山が嬉しそうな顔で参加している。
「 今晩のはあのクリ◯ ポッターってジャズマンの曲が多かったな 」
流石に菅山もよく知っている
「 ええ、少し挑戦してます 」
言いながら薄く笑うジュンヤ。
「 今夜はもう終わりなら少し飲もう 」
という菅山の誘いに、
「 ありがとうございます、じゃあ、同じものを 」
俺は自分のロックグラスをジュンヤの前に滑らした。
少し驚いた様に俺を見たジュンヤ。
「 飲めよ 」
少し目を顰めてステムを持ち、グラスの中の香りを確かめた後、ジュンヤは一気にそのシングルモルトを煽った。
焼けただろう喉に手をやって、少し頤の奥を押さえるようにする仕草。
菅山が手を上げてスタッフを呼ぶと、マッカランのロックを3ショット頼んだ。
「 僕はハイボールまでがせいぜいですね 」
とのんびり喋る三枝君が今の俺には唯一の救いだな。
目の前に置かれたストレートグラスは正に琥珀色そのもののウイスキーが3分目漂う。
この店はストレートの香り立つよう途中ふくらみのあるグラスで出す。ステムの長さも男の手にも程よく薄く磨かれた狭口のグラスの縁は口当たりも上々。
僅かに傾けて乾杯の形をとると少しずつ唇から下へと転がすようにウイスキーを味わう。
まだまだ若いんだ、ストレートの飲み方も知らないとは……さぁ、始めるか。
「 ドイツへはいつ?」
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