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第202話
あの頃の気持ちに(ジュンヤ)
その55
「 あんた、大丈夫?かなりきてんじゃないの?声おかしい 」
「 黙れ、気のせいだ 」
「 ジュンヤはどう?」
「 連絡してないのか?」
「 あったりまえじゃん!あん時俺たち完全に切られたじゃないのさ、、、でもドイツだけど、
あの中のメンバー、やばいよ 」
「 やばいって 」
「 ふふ、ジュンヤ狙ってる奴がいるってこと!
手が早いのとむっつりと、あー
むっつりはあんたもか 」
「 なんだそれは 」
「 手の早いのはドラム、むっつりはベースの男、そっちはかなりマジだからさ 」
「 どうしてそんな事を俺に教えるんだ?」
「 俺たちは、ジュンヤがこっちへ来た時から苦しんでたのを知ってるからだよ。
party boy なんかやってるくせにちっとも楽しそうじゃなくて、
あいつはいつもバカみたいに日本帰りたがってた。俺なんかそれがうっとおしくてエドけしかけてあいつをセックス漬けにしたくらいなんだから……
帰りたくてあんたのそばに居たいって何年も何年も諦めてなかった。二年前帰った時もあんたに会いたいのに踏み出せない自分を呪ってたよ。
連絡誰からも行かなかったの?ジュンヤが帰って来てるって 」
「 知らなかったよ 」
「 運がないな、ジュンヤも 」
俺をからかい、ジュンヤを心配しながら電話は切れた。
人を焚きつけるのが上手い奴だな……
セックス漬けにしたって?
下腹に思い澱が溜まる。
そんなあいつをドイツに、か。
ドイツなんて遠くはない。
あいつの心が離れるとも思ってない、遠いのは俺の中の本心だ。
しばらく忘れていた本気の恋。
それをどうやって捕まえたらいいんだろう。そもそも捕まえていいんだろうか。
遠いな。
俺とジュンヤとの間にはセックスと愛だけでは埋められないものがある。
ジュンヤの愛した俺と
ジュンヤに恋してる俺。
この時間の隙間が埋まらない。
同じ時を生きてないもどかしさ、知らないことを埋めるのには俺はあまりにも冒険できない大人なんだよ。
こんなに歳を感じたのは初めてだ。
ジュンヤは失いたくない。
執着する気持ち。
初めて心の底から失いたくないものができた。
俺の指は履歴を呼び出すと深夜にも関わらず遠慮なしに通話のタップを押す。
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