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第204話

あの頃の気持ちに(ジュンヤ) その57 俺は次の日、上野に向かった。途中、花を買うかどうか迷ったが持ってきたスコッチで十分だなとそのまま線香も持たず寺の境内に入るとある墓の前に立つ。 そこは青木家の菩提寺で、何代か前のご先祖迄しっかりと並んで入っている黒い御影石で整えられた見た目はえらい立派な墓地だった。 最近は誰も訪れてないかと思うほど何も添えられていないが、ここの住職のご母堂が毎日墓地の掃除を小まめにしているのを知っている俺はその白那智石と黒御影だけのコントラストが寂しい光景とも思わなかった。 春分からもう一ヶ月以上たっている。青木家は子宝にあまり恵まれる家系ではないせいか、年々墓参りする人は減る一方だ。 俺の所も俺で最後だろうしな。 持ってきたスコッチを銀のショットグラス2つに注ぐと、献杯し一気に呷る。 「 星矢、ジュンヤはお前の子なんだろうな 」 青木 星矢 ◯◯◯◯年3月20日没 享年 35歳 あまりにも早い死の訪れだった。 青木星矢は俺の従兄弟で年も同じ、そして高校、大学と同窓生だった。 ジュンヤの母親の香織は大学の頃はアルバイト先で知り合った俺と付き合っていた。 俺の浮気性な所に嫌気がさして卒業した後、香織に片思いしていた星矢に乗り換えた。そしてその後ジュンヤが誕生したんだ。 香織は星矢の子どもだと言い張っていたが、どうやら二十二、三の時には俺と星矢と同時に付き合っていた時期もあったらしいことが亡くなった後に星矢が俺に遺した手紙でわかった。

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