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第11話
a memory from summer no.4
職場編 その2
出立の朝、
結局、夏休みに一緒にとシンガポール旅行を提案してきたパートナーには、出張の件は伝えきれずに、
もし、聞かれたら、杏果から伝えるという狡い作戦をとった俺。
流石、歳、朝も早くから迎えに来た、教頭先生の車に乗って、
研修の地に向かった。
黒いVネックのサマーセーターに、
薄いグレーのストライプの入ったくるぶしまでのボトムと深い紺色のローファーを履いた姿は、とても50過ぎとは……うん、思えないな。
教頭先生の鼻歌と俺の暫沈黙が暫く続いた車内に、軽快なリズム、これはギターかな?
その程度の知識の俺だけど、この曲は知ってる。布袋だ。
日本人のも聞くんだ、とか思いながら、音楽関係の話を出すと、先日の流れに乗るのはよろしくないと、話題を探す。
「違う車ですね。
何台ありましたっけ?
車庫に 」
「さぁー、
5台か6台じゃないか?」
「そんなに持ってどうするんですか?」
「いやいや、どれにも良いところがあるから、そこを楽しむのにね、
生徒と同じで、個性色々、全て可愛いとかね」
生徒と車を一緒にするんじゃないと、思いながらも、この乗り心地の良い車の名前を聞いてみる。
「これは、ベントレーのGT、
先生は車に興味ある?
コンチネンタルの……」
「ないですよ、全く。
外車?ですか?
高そうだなと思った次第で」
説明が長くなりそうだったので、話を遮った。
「あー、新車だとそこそこ、とかね。これは中古だからそんなでもないよ 」
車の値段なんか全くわからない俺に、
中古の車の安く買う買い方など、楽しそうに喋りながら、iPhoneから流れるリズムにのり、スムーズに適度なスピードを、出しながらも安全運転で、高速を走らす教頭先生。
興味の全くない話だけど、教頭先生は声が低めで柔らかく、耳障りの良いリズムで喋るので、子守唄がわり。
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