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第28話
a memory from summer no.21
職場編 その14
午前中も12時ぎりぎりまでみっしり講義があった。久しぶりの知識に頭の中が満杯になる気持ち良さがあった。お昼は弁当が用意されていて、ああこれだから教頭先生昼飯のこと、何も言わなかったんだな。
講義室の外の窓際のカウンターで弁当を食べていると、
「 外暑そうですね 」
と声をかけられた。
声の方向を見ると、若そうないかにも初めての講習会という青年が座っていた。
横に人が座ったのもわからないなんて、なんて集中してたんだろ、と
苦笑いしてると。
「 何かおかしなこと言いましたか? 」
と尋ねてくるので
「 いやいやなんでもありません。
久しぶりに頭をいっぱいにしたものですから、周りのことに気がつくのが遅くて、失礼しました 」
「 頭をいっぱいに、て、面白い言い方ですね! 」
と笑い出す彼に
「 あなたは数学の教員なんですか⁇ 」
と逆に尋ねてみたのはなんでだろう、
誰かに似てる?誰に?
嫌だな、何か思い出す。
「 僕はいや、私は辰野陽太、私立有澤学園で数学教えてます。
まだ3年目なんですが、来年は担任持つ予定のようなので、今回講習に来ました 」
ここまで丁寧に自己紹介されると俺の方も応じないわけにはいかなくなった。
時間切れ狙いたいが、昼休みは後15分はある。
「 私は都立高校で数学教えてます。
三枝ヒロシと言います。
教員歴はもう20年くらい。
今回はベテランこそこの講習にということで引っ張ってこられました 」
これ以上話しもないはずと踏んでたのに予想外に話が続いてしまった。
朝の特別講義について、お互い話が噛み合い、俺もかなり青木さんの話した異業種交流のみならず異学科交流の提案に、同じような感想を持った辰野君とは話しがとてもあって、結局午後の講義は隣同士で聞くことになった。
俺にしては本当に珍しい。
過去の鮮烈な想い出
茶色で透けたような前髪。
小さめの顔を支える首すじ。
切れ長で弓を張ったような眦。
教科書を抑える、長く節だった指。
開いた首元のワイシャツから見えるくっきりとした鎖骨。
を辰野君が揺さぶるからでは、決してない。
うん、ない。
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