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第35話
a memory from summer no.28
職場編 その21
夕方5時過ぎに全ての講習が終わった。
疲労は腰や背中、首筋にまでたまっている気がする。
これから途中で夕飯をすまして新幹線で帰るという辰野君達とは、このホールでお別れ。
なにやら寂しい気がするのは、辰野君の素直で懐っこい性格と誰かさんに容姿容貌雰囲気が似てるせいだとさすがに自覚してる。
辰野君も俺に何か言いたげだったが、今度は東京近辺で会おうということで、握手をして別れた。
ホール出口を出て行く辰野君達を見送っていると、肩にポンと手が置かれた。
「 もういいか? 」
「 はい。大丈夫です 」
「 青木は少し後から来るようだから、先に行こう 」
と地下鉄の宝ヶ池の駅に向かう。
なんとなく話し辛いのは朝の雰囲気が残っているのか、昼のやりとりのせいか……
まあ、どっちにしても後1日、今晩は青木さんがかき回すだろうからそんなに気にしてもしょうがないか。
烏丸御池の駅で降り京阪三条駅の方へ向かい、川を越え仄暗い街を歩き横断歩道を渡ると、白川沿いの料亭街に入る。
白川沿いは外人の観光客でいっぱいだが、照明が落とされ独特の雰囲気で川そばをで夕涼みする人たちを楽しませている。
教頭先生に案内され入ったのは、白川の川沿いに構える、カウンター割烹の店。奥の長い路地から入ると、正面にはシンプルでどっしりとした暖簾がかかる。
臆することもなく入って行く教頭先生。
知ってるのかな?
玄関の框を上がると、
「 いらっしゃいませ! 」
という掛け声とともに、カウンター奥の川を眺められる席が用意されていた。
目の前は存在感のあるかまどと真っ白な調理衣をまとったい精悍な板前さん達。
出されたおしぼりに手をやると、
落ちついた声で、
「いらっしやいませ。お久しぶりです 」
板前帽をきりっとかぶった、中年の男性が親しげに対応する。
「 まずは?ビールかな、三枝さん、どうする? 」
「 はい、僕も同じもので 」
落ち着いた店内は黒を基調に深い濃い色の木目をあしらって、居心地の良い空間になっている。
「 先生もご存知なんですか? 」
「ああ。京都に来る時は必ず来るかな。
それと、ここでは先生はやめよう……
菅山でいいよ 」
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