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第39話

a memory from summer no.31 職場編 その24 カウンター割烹 「 酒にするか? 」 「 そうだな、ビールだと腹が膨れるばっかりだしな 」 「 日本酒お願い 」 すると店長が心得たように奥の厨房に入っていった。 持ってきたのは一升瓶。 カウンターに置くと、 「 山形の純米酒です。 あまり大きくない蔵元ですが、 夏にすっきりと切れ味が良いので 」 冷やしたフルートグラスを3つ置き なみなみと注いでくれる。 冷えたグラスがわずかに水滴をまとう。 「 おっ、愛山じゃないか 」 と嬉しそうにグラスを手に取り、 酒に口につける先生と青木さん。 そして、 目の前に置かれたのはお刺身だ。 「 今日のお造りは 骨抜きの鱧 薄造りと鱧の落し、 ヤリイカ、生湯葉、こちらはよこわになります 」 深い緑の色の葉を模した皿に、 花のように開いた薄く鱧、ぷりっとした鱧の落し、クルリと巻いた湯葉、 ヤリイカと 飾りの茄子の花の後ろは よこわ? 「 よこわか、俺好きなんだわ 」 と言う先生に 「 よこわって? 」 と聞くと。 カウンターの向かいから、刺身を引いていた板さん(向板)が、 「よこわと言うのはクロマグロの若いの のことです 」 と説明してくれた。 「 若いっていっても熟れ具合は三枝さんくらいのかな?旨そうだ 」 と笑いながら青木さんが言うので、 「 セクハラですよ 」 と言い返しておいた。 先生はとにかく、料理を存分に楽しむタイプらしく、板前さんとお造りの食べ方の話にこうじてる。 こんな青木さんの冗談も頓着なしに、 俺に熱心に説明してくれる。 「 鱧は梅肉があってる。 他の刺身を 泡じょうゆで食べる時には、 刺身の方に少しわさびをのっけるんだ 」 早速やってみると、 鱧はどちらも、梅肉で淡白な旨味を引き出してる。 よこわやヤリイカは まろやかな泡じょうゆが素材の上品さを壊さず、 「 うーん、美味しい 」 それを告げる俺ににっこりとする。 「 奥のなんだかわかるか?このケン 」 「 なんだろう、少し違いますね 」 「 サツマイモのケンだよ、 食べてみて 」 「 ほんと、サツマイモ……」 俺が存分になごめるように気を遣ってくれるのか。 そんな先生に俺は……… 浮かんだ気持ちを打ち消して、 曖昧に笑って返すことしかできない。 ーーーーーー 料理の画像はアトリエブログの最初の頃に入れてあります。 美しい盛り付けなので是非ご覧ください。

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