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第46話

a memory from summer no.39 職場編 その32カウンター割烹 酢のもの 皿の中央に塩が敷かれ、 小ぶりな鮑の貝の器に寄せられたのは 「 酢のものです。 鮑を柔らかく蒸し下味を付けたものに、長芋素麺ともずくの酢のものを合わせてあります 」 「 長芋素麺? 」 聞きなれない名前に 「 長芋を素麺に見立てて細く切ったあと甘酢につける、暑い夏にすっとのどごしの良い料理です 」 と説明を受ける。 ひとくち箸で鮑と素麺、もずくを取り、口に入れると、柔らかな鮑と、長芋のシャリっとした舌ざわりの残る素麺とが、うまく合わさる。 「 もずくが鮑と長芋の食感をうまくつなぐようだな 」 と青木さん。 「 長芋素麺、知らなかった? 」 と聞く先生に頷くと、 「 そうか、あんまり向こうではしないかな? 」 青木さんが 「 それなら、魚そうめんも聞いたことない⁇ 」 と聞くから、その名も全く覚えのない俺は 「 聞いたことないですね、魚そうめん…… 」 それを聞いていた板前さんが厨房から 何かを、載せた皿をもってきた。 「 こちらが魚そうめんです。 白身魚のすり身をそうめんのような細長い形にしたもので、夏の京都では鱧と共によく出されます 」 すこしちぢれたような姿のそうめん。 「 まぁ、いわば蒲鉾の細いのだけどね 」 と風情のない言い方をした青木さんを全く相手にせず、 「 京都以外では、あんまり食べたことはないな、やっぱり鱧の季節で食べられるのがいいよ。京都にいるって感じがするもんな 」 と先生が丁寧にその気持ちを語る。 俺は酢のものをしっかり味わいながら、この2人の仲が続くのはこの所々わざとかみ合わせない感じのゆえかな、と納得した。 ーーーーーー 料理の画像はアトリエブログの最初の頃に入れてあります。 美しい盛り付けなので是非ご覧ください。

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