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第50話
a memory from summer no.43
職場編 その36
タクシーの運転手にホテルの名を告げ
た。俺たち2人のおかしな雰囲気に当然気づいてる運転手も何も話しかけてこなかった。
静まり返った車内で、聞こえるのは無線の声かけだけ。
『 グランドクイーンホテル、了解 』
そのすこし詰まった声と共に無線も切れた。
暫くしてホテルの前にタクシーがつけられると、先生がすかさずこれでと札を出す。
「 悪いね、釣りは取っといて 」
とタクシー降りる。
何に謝ったのかわからないが、俺もすみませんと言いながらタクシーを降りた。
ドアマンにおかえりなさいませと言われフロントに入ると、
やはりだ、
「 俺少し時間潰していくから 」
とバーの方へ行こうとするのを、
また強引に引っ張って反対側のエレベーターホールに向かう。
お客がいないのにほっとしながら、さすが一流ホテルのエレベーター、待たせることもなく着いたエレベーターに先生を押し込み、8階のプレートにタッチした。その間は無言、何か喋れと思ったけど、先生は一言も発しない。
そのことにまたイライラが重なった。
部屋に入り、窓ぎわで俺に背中を向けたまま佇む。
たまりかねた俺が先にしゃべる。
「 菅山さん
俺には恋人という存在がいるんだ 」
「 随分かたくるしい言い方だな 」
「 俺には好きな人がいる 」
「 そう、その方がずっといいよ 」
俺に背を向けカーテンを開けたままのガラス窓から暗い外を見つめながら
話す男に、
怒りが湧いて来る。
「 わかっているのになんでなんだ 」
「 どうしようもないんだ、
この気持ちが捨てられない。
隠す根性ももうない。
歳をとったからって、こんな気持ちが薄れるわけじゃなかったってことだな 」
そんな勝手な!
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