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第51話
a memory from summer no.44
職場編 その37
そんな勝手な!
俺は近づいて思いっきりその目の前の背中を殴った。
「 強引に講習決めただろ 」
どうしてこんなに頭にきたのかわからないし、こんなことは初めてだった。
感情のままに手を出すのも初めてだった。
勝手にホテルの部屋一緒にしやがって、
おまけに、ベッドじゃなく隣の部屋のソファなんかで寝やがって!
二発、三発、自分の手の方が痛くて、
手が止まった。
先生が身体を返して、俺の手を掴んだ。
俯けた顔から汗だか悔し涙だか、両方流している俺の背中に手を回して。
「 それでも、触れてくれるのは嬉しいよ 」
聞こえてきたその言葉と一緒に先生に抱きしめられていた。お互いの心臓の音が聞こえる。
先生の肩に顔を押し付けたまま、
「 あんた、狡いよ、変だよ 」
そんな言葉しか出てこない。
「 ずるいよな、そうだよ、
先だって見えてる……
俺には若さはもうない、こんな突き動かされるような気持ちになることは本当にもう縁がないもんだと思ってた……
最後かもしれない 」
濃い酒の匂いのする腕の中、上がった体温をシャツごしに伝える胸に自分の身体を預けて、その気持ちを聞いてるのが、なんだか心地よい。
意地が悪いんだよな俺って、もともと、人を振り回すのが好きだと昔からよく言われてた、あの快感をこの人で思うなんて。
腕を回して抱きしめ返したら、どんな反応が返って来るんだろう?
確かめずにはいられなかった。
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