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第53話
a memory from summer no.46
職場編 その39
翌朝は見事な快晴で2人は約束通り宝ヶ池の周りをジョギングしようとホテルから池への遊歩道をおりる。
「 一周約1.6キロだから、5週すると8キロってことだ 」
「 俺そんなに走れないですよ、インドア中年なんだから 」
「 じゃあ、どのくらいなら走れるんだ? 」
「 2周もしたらギブですね! 」
「 酷いな校内マラソンより少ない 」
笑いながら軽く体操し池の周りをゆっくりと走り出す。
「 ジョギングシューズじゃないが下は土だから、スニーカーでも大丈夫か?」
「 ええ、大丈夫そうです 」
高い青空の下、結構な数の人たちが思い思いにウォーキングやジョギングをしている。
「 挨拶を交わしながら、走るのも気持ちいいもんだろ 」
「 そうですね、この辺の人皆さん、ちゃんと挨拶をするんですね 」
東山の小高い山に囲まれ、その先には比叡山も見える。
山が池に映る姿も清々しい。
昨夜のやりとりを思い出して、少し甘い気分になるのは仕方ない。隣で俺の速度に合わせて走る人を意識しながら、木陰あり日の当たる場所あり変化のある路を走る。1周が2周になり3周めに入った。
「 やっぱりこのくらいで 」
「 そうか、じゃあ俺は後2周してくるから、待っててくれ 」
と言い先生は少しスピードを上げて走り続ける。
背も高いし、スライドも長い。
綺麗なスタイルでしっかりとした歩幅を保ちながら走るのを見ていると、
結構普段も鍛えているのがよくわかる。
俺も少しは頑張んないと、と下腹部を撫でてみる。そんなに出ちゃいないけど、男としては筋肉ついてないよな、なんて反省しながらのんびりと朝の時間を池のほとりで楽しんだ。
帰りの遊歩道は、朝食のバイキング何を食べるかなんてたわいもない話をしながらホテルに戻った。もうすっかりわだかまりは消えて、隣を歩くお互いの距離も腕がたまに触れるくらいは近くなった。
ドアマンに挨拶をしフロントを通り抜けると、
「 三枝、よかったら案内したいところもあるし、もう一泊……」
そう言いかけた先生の後ろ、
俺が目を見開いたのに気づいた先生はその先の言葉を飲み込んだ。
俺が見つめた先。ロビーのソファに座っていたのは、
良く知ってる姿、京都にくる前には一緒に過ごした 男 だった。
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