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第56話
a memory from summer no.49
恋人編 その10 (職場編 その42)
エレベーターに乗るまでは強気でかえって俊を説教するほどの気持ちだったが、エレベーターを降りる頃には、
スマフォの行方おそらく何回も連絡入れてるはず、という事の気の重たさでさっきの勢いはどこへやら状態。
ラウンジの扉を開けて俊の姿を探すと、外の人工の滝が見渡せる窓際の席でゆったりとコーヒーを飲んでいる。
姿勢良く小さめの頭をすっと伸ばしてもリラックスした姿を表せるという相変わらず得意な個性の持ち主だな。
そはに行くと肩肘を背もたれに乗っけて小さく伸びをした。
近づいてきたスタッフに俺のコーヒーを注文して、
「 朝早かったので、まだ眠いですね 」
「 なんだ、そんなに無理しなくても良かったのに 」
気恥ずかしさから思わず出る言葉が冷たくなる。
「 はは、たまには恋人を遠くまで迎えにくるって良いもんだな、って 」
グハ……
思わず周りを見回すと、
「 誰も聞いてません、大丈夫 」
と微笑まれる。
スタッフがコーヒーとポットを持ってきてお代わりを促すと鷹揚に頷いてカップを指差す仕草は外人みたいだな、とどうでもいいことを考える。
連絡もしなかった理由、言い訳をよほど考えたくないし言いたくないらしい自分に思わず苦笑が出る。
「 どうします? 」
「 何が? 」
「 今日ですよ 」
「 ……俺は菅山先生の車で来たんだから先生と一緒に帰るのが礼儀だろ? 」
「 へー車で来たんですか…… 」
しまった!そのことも言ってなかったか!
「 うん、なんかすごい車で 」
「 へー 」
それっきり俊も注がれた新しいコーヒーを飲みながら、黙って外を眺めいる。
いたたまれずに俺は、
「 迎えに来たのか?連絡もしなかったし其れは悪いと思ってるよ。
久しぶりに慌ただしい講習会だったからなかなか 」
「 気がつかないもんですか?気にならないもの?まあ、俺たちは大した歳の大人だからね。
それともほかに気になるものでもあったの? 」
露骨な話を急にふられて、色々思い当たることのある俺は思わず耳まで赤くなった。
コーヒーを、カップに置くとガチャンとやけに大きい音が響く。
「 ふーん、図星か 」
と呟いた俊の切れ長の眼が奇妙な形に笑いながらしかめられた。
音に気づいたのかスタッフが寄ってきたので朝食の注文をしてそれ以上の話はさけた。
「 朝の和定食を2人、お前どうするの? 」
「ああ、俺は新幹線の中で軽く食べましたから、
なんかフレンチトーストか何か 」
「 はい、フレンチトーストなら用意がございます 」
「 じゃぁ、それで 」
「 かしこまりました 」
「朝定2つね……
俺はあんたにまだキスもしちゃいない 」
と呟いて肘掛に肘をつき俺をじっと眺める俊には何かぜったいにバレていると思った。
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