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第68話

a memory from summer no.61 4人で その5 どんな歴史上の人物がこの帝国ホテルのロビーであいまみれたんだろう。 家具や備品まで自らデザインした極上の空間でライトはなにを考えていたのか、しばし過去にとらわれた。 気がつくと隣には俊ではなく、教頭先生が立っている。 「 どうしたの?ぼんやりして 」 「 ここを設計した建築家は、なにを思っていたか、少し考えてしまってました 」 「 そうだよな、こういう、全てをまとめ上げている感性の中に入ると、その人の複雑な脳の中に入ったような気がするよ。 こういう空間で教えられる言葉をは何倍にも子どもたちの頭と心に入っていくんだろうな 」 「 え? 」 「 俺はさ、学校って空間はもっと自由でよいもんだと思ってる。 教育ってのは、ランドスケープみたいなもんで、 その時代の環境やそれまでの歴史そして資源が多目的な空間を作って、その中で人を見つけていくっていうのか、一緒に育てていくもんだと思うんだ 」 「 環境と歴史はわかりますけど、資源はなんですか? 」 「 資源は子どもたちかな。 掘り出して大切にして、その貴重な能力を形にしていく、そんな夢、この歳で見ているのはおかしいか? 」 「 おかしくありませんよ。絶対におかしくない 」 絶対に、なんて言葉は教えるものとしては使っちゃいけない言葉だけど、そう強く表したかった。 本当に深く強く優しい、この人に。 色々な展示物を見ながら二階に上がると、俊と青木さんがなにやら話し込んでいる。 「 意外と合うんだな、あの2人は 」 「 最初は随分俊がつっかかって、すみませんでした 」 「 君が謝るんだ 」 「え?……まぁ、俺の連れですから 」 「 はは、俺たち4人も俺っていう自称で話せるほど親しくなったし、 今回は引き下がるよ 」 「 どういうことですか?引き下がるって 」 「 君を口説くのを東京に帰るまではやめておくってこと 」 そう言うと教頭先生は照れたように顔をそむけ、 「 腹減らないか?昼にするか 」 と2人の方へ歩き去った。

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