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第75話
a memory from summer no.68
心の底 その2
吉祥寺の本町、井の頭公園の近くにある低層の少し前に建った建物。
それでもタイルと石張りの外観から高級な趣きの残るマンションに入っていく。
固いセキュリティーの表ドアをくぐると中のホールは半地下になっているようで、ハイサイドから注ぐ薄日と間接照明に照らされた意外と広い空間だった。
どっしりとした雰囲気のホールで外人が数名ソファに座り歓談をしている。
その横を英語で挨拶して俊が通り過ぎる。
なんか気おくれしてしまうところだ。
ホールの先、中庭に面した廊下にエレベーターの扉が見えた。
「低層なのにエレベーターがあるのか? 」
「ええ、まぁ一応外人専用のマンションですから。設備はそれなりです」
外人専用?お前外人じゃないじゃんと、つまらない言葉を飲み込んでエレベーターで3階に上がる。
降りて中庭の吹き抜け周りの廊下を数メートル行くと、
付き合った所に亜麻色の重厚な框の玄関ドアがあった。
俺もマンションに詳しいわけじゃないがマンションで両開きドアって珍しくないかな。
俊がカードキーでその玄関ドアを開けて
「 さあ、どうぞ 」
と入るようにうながされる。
玄関の上がり框がなく、入ったところだけ床はタイル張りだが、そのままのレベルで絨毯が敷かれていた。
「 靴のままでいいですよ 」
と再度うながされて、連れ立って部屋に入る。
わずかにいつも俊の身体から移る残り香を鼻に感じた。
俊の家だ。ここは。
脳より体の奥深くで覚えているこの匂い。
俊と逢う時、それも夜のセックスを伴う逢瀬はいつもホテルだった。
俺の家にはたまに遊びに来たけれど、俺が俊の部屋に入るのは、初めてで……
今まで俺を呼ばなかった家。
俺も行きたいと俊にねだったことのない部屋。
なぜ、今日なんだろう?
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