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第76話
a memory from summer no.69
心の底 その3
靴のまま入った部屋は
紺色の絨毯と淡いブルーの壁紙、そして置かれた家具は赤みがかった金褐色のツヤをまとった美しい色をしている。
「 日本にいることを忘れるような部屋だな 」
「 ええ、家具は親父が若い時に輸入して集めたものですから、いい色になってきましたね 」
「 輸入?ヴィンテージ家具の? 」
「 北欧主にデンマークの家具です。
職人の手作りの家具を気に入って運んできたと言ってましたね 」
「 へー親父さんは、家具の輸入をしてたの? 」
俺が俊の家族の話を聞くのは初めてだった。自分でもそのことに驚きながら
「 いいえ、家具は自分の趣味ですね。仕事は、ただの銀行員ですよ 」
続く話になぜか疑問がわいた。
「 え?銀行員? 」
俊の高校の時の調査書は、確かそんな記載はなかったような。俺の疑問がわかったかのように、
「 俺が高校の時にはもう離婚してましたから、母とは 」
過去の記憶と言われた事の辻褄を合わせるために沈黙した俺に、
「 ヒロには言ってなかった。おふくろは再婚してアメリカに行ってたから、俺はここで社会人になってた姉貴と住んでたんだよ 」
急に言葉遣いがお互いの身体をむさぼる時のものに変わった。
俺はあの時、お前に夢中で。
当時の気持ちが、あの夢中になって高校生の俊に恋をした頃。あの気持ちが、カッとよみがえってきた。
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初めてだった。
何も見えなくなる、聞こえなくなる…
毎日が、その姿だけで終わる。
茶色で透けたような前髪。
小さめの顔を支える首すじ。
切れ長で弓を張ったような眦。
教科書を抑える、長く節だった指。
開いた首元のワイシャツから見えるくっきりとした鎖骨。
狭い通路に投げ出された学生服から覗く、素肌の足首。
全てに、神経が行く、全てに感覚が向かう。
なんで、なんで、
同じ性を持つ、この存在に
全てが奪われるような
恋をした。
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