90 / 207
第91話
打ち上げ騒動 その8
( 歳上の彼は多情なオトコ )
「 ライブは7時からです 」
神崎さんに案内されたテーブルは
玄関から一段下がった奥、ステージの前の左奥側少し高くなった6人席で、ゆったりと座れそうだ。後の3人が大きいから4人席だと窮屈だから良かった。
俺のために椅子を引き、神崎さんが青木さんの顔を正面から見る。
「 こちらは初めてですか? 」
「 ええ、初めてです 」
と青木さんが神崎さんの眼をじっと見て答える。
神崎さんはその答えにふっと軽く微笑むと、
「 どうぞ、ゆっくりしていってください。今夜はテナーサックスの調子が良さそうです」
とメニューを置き店の奥へ戻っていった。その背中を眼で追っていた青木さんは硬い顔をしている。どうしたんだろと思っていると、
「 三枝君は何にする?
俺はスパークリングワインにするけど 」
飲み物のメニューを開きながら青木さんが聞く。
「 ビールじゃないんですか? 」
「 太らないようにしてるんだよ、これでも 」
と硬かった表情もいつもの調子に戻った。
「 じゃぁ、俺も同じもので 」
「 あれ?太るの気にしてる?三枝君の場合は少し肉つけたほうが良いって言われない? 」
このわざとらしい言い方、
「 誰にですか…… 」
と声を低めて返すと、
わはは、
と笑って誤魔化された。
「 早かったですね、こんばんは 」
という挨拶と共に俊がきた。
「 よお、今回は世話かけたね、
今飲み物頼むところだけど 」
「 ああ、ヒロシさんは何に? 」
「 俺たちはスパークリングワイン 」
青木さんが答えると、
「 俺たち?、、、じゃぁ、俺もそれで 」
「 どうせ菅山もそれでいいだろうから、ボトルで頼むか 」
青木さんはホールスタッフを呼んで
「 プロセッコ、ボトルで 」
と伝えた。
この2人が喋ると卓球のラリーのような応酬が始まるのはなんでだ?
「 今夜のライブ、テナーサックスは青山ジュンヤ君ですよ 」
「 あの、さっき神崎さんがテナーサックス調子が良いって言ってた 」
「 神崎さん?名乗ったんですか?
へぇー、彼の方から? 」
「 また吸い寄せたか!牽制しとかなくちゃな 」
青木さん、言ってる意味がわからないですが……
ともだちにシェアしよう!