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第92話
打ち上げ騒動 その9
( 歳上の彼は多情なオトコ )
ダイニングバーの灯りが日暮れと共に
夜の帳が下りるように落とされていく。
卓上の灯りのもとで
店の中はそこここで酒を飲み低く会話を楽しむ声がする。
ホールスタッフがプロセッコの黒いボトルとフルートグラスを4脚持ってくるタイミングで、
渋谷君に案内されて菅山先生がホールに入ってきた。
スタジオを軽く眺めながら俺たちの席の方に歩いてくる。
「 遅くなってすまない。
驚いたよ、渋谷がいるなんて 」
と笑顔を浮かべると、
「 今日はよろしくな 」
と軽く渋谷君の肩を叩く。
はいと頷きながら、
プロセッコのボトルをスタッフから渡された渋谷君は
フルートグラスに手際よくスプマンテを注いでいく。
「 板についてるな 」
と青木さんが声をかけると、
「ありがとうございます。
特訓しましたから 」
と爽やかに応える。
「 渋谷君、杏果と同じ年とは思えないな 」
と思わず呟くと、同じ事を俊も思ったのか
「 そうですね、杏果君はまだまだ可愛らしい 」
「え?この青年と?杏果君って? 」
「 杏果は俺の息子でこの渋谷君とは幼馴染の同い歳です」
「 ついでに俺たちの学校の卒業生だよ 」
と菅山先生が説明をする。
渋谷君がそれでは後ほどオーダーを伺いにきますと席を離れる。
「 まずは先日の打ち上げ、乾杯するか 」
とフルートグラスを持ち上げて軽く合わせる。
美しく繊細な泡が喉を通ると、僅かな刺激と葡萄の香りがふわっと鼻をくすぐった。
「 アダミか、イタリアのG8の時のワーキングランチで出されたものだね 」
「 さすが年の功、詳しいですね 」
と言った俊に、
「 後は、ホストの割井さんお勧めのものでお願いするよ 」
返す青木さん。
本当にこの2人は懲りない。
思わず管山先生と顔を見合わせて笑った。
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