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第93話
打ち上げ騒動 その10
( 歳上の彼は多情なオトコ )
フルボトルのスプマンテがなくなる頃には俊の頼んだ何品かの品物がテーブルを賑やかにしていた。
三種の魚、鯛 いとより ほうぼう のカルパッチョ
鶏胸肉のコンフィ
夏野菜のオーブン焼き
そして 本格的に飲む前にと
チーズの盛り合わせを追加して頼んだ。
どれもこれも、男4人のテーブルに合わせて量は大目に盛られている。
舌鼓を打ちながら、飲み物のオーダーをかけようとホールスタッフを呼ぶ。
俊が手のひらをすこし挙げただけでスタッフが寄ってくる。
ドリンクメニューを見ながら、ライブが始まる時間が近づいてくるのを考え、アイラモルトのラフロイグのソーダ割りを俊が選んだので俺も一緒にと言ったら、俊に味と香りが独特だから、ヒロシさんは比較的柔らかな日本のがいい、竹鶴でと決められてしまった。
たしかに普段はまったくウイスキーは飲まないからここはいう通りにしておこう。
バーボン ワイルドターキーの水割りを菅山先生。
そして青木さんは、しばらく考えていたが、
アイランドモルトのタリスカーのストレートとチェイサーには硬水の炭酸を頼んだ。
「 タリスカーとは、今夜は特別なんだな 」
と話す菅山先生に、
黙ってステージを見つめたまま、軽く指を上げて菅山先生にそうだ、と返事を返す。
ステージの方が賑やかになってきた。
薄く照明があてられた。
ピアノ、ベース、ドラムセットの定位置に人が座ると、
ステージの真ん中には
漆黒の長めの髪も美しい、
キラキラと光るサックスを持った
男性が登場した。
ローライズのグレーピンストライプのスラックスとネイビーワイシャツの腕を軽くめくり、ブラックのナロータイを緩くしめた姿で、すぐ後から入ったトランペットや今夜のメンバーを見渡し、アイコンタクトをとったら、
ステージの照明が一瞬落とされた。
暗くなったステージから、
ドラムの音が響きわたり、鳴くようなサックスが聞こえてきたところで、照明がついた。
ステージを見ていた客が全員うわぁと
叫んだ声が空耳で聞こえてきた気がした。
それほど華麗に演奏は始まった。
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