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第105話
シンガポール ハイ
その1
成田夕方の4時、待ち合わせのカウンターに到着した。
「 杏果。大丈夫か?なんか酷く疲れてるようだけど 」
「 うん、ちょっと眠いだけ、大丈夫 」
「 何時間かかるんだ?シンガポールまでは 」
「 8時間くらいって割井さんが言ってたよ 」
「 そうか 」
建物の入り口から背の高い男が2人歩いてきたのが見えた。
外人も多いカウンター回りだが、姿勢良くビジネスマン然とした歩き方は、スーツじゃなくてもエリートだとわかる。
あっ!割井さん
と杏果が手を挙げると、少し歩みを早くして近づいてきた。
隣を歩く人が一緒に行く朝霞さんという人か。
「 こんばんは 」
俊の隣に立っている人がいの一番に挨拶をする。
「 初めてまして 」
と軽く頭を下げると、慌てて
「 あっそうですね、初めまして、
私は割井さんの職場の後輩で、
朝霞智之と言います。よろしくお願いします」
「 そうですか、割井さんの職場の、
私は三枝ヒロシと言います。で 」
と杏果に挨拶を促すと、
「 僕は三枝杏果です。ヒロシの息子です。
よろしくお願いします! 」
さっきまであくびばかりしてたのに急に元気に挨拶をしている。
杏果のおかげで俺と俊の間柄を説明しなかったけど、どこまで言っていいのかわからなかったし、助かった。
「 杏果……どういう字を書くんですか? 」
「 あんずに果物のかです 」
「 あんずに果物か、可愛い名前ですね、あなたにぴったりだ 」
「 なんか聞いたことあるフレーズだな 」
と俊が首をかしげている。
カウンターでチケットを受け取り
スーツケースを預けるとスッキリとした。なぜかずっと杏果の隣に寄り添ってる朝霞さんに、なんでも聞いて杏果は楽しそうにしている。
「 すっかり仲良しですね 」
「 うん、朝霞さんって優しそうだな 」
「 また、聞き捨てならないですね 」
「 何言ってんだよ、杏果人見知りだから話しやすそうで助かるって思ったんだよ 」
「 あいつ優しいですけど、手は早めですよ、一応手は出すなときつく言ってありますけどね 、あなたにもね 」
「 え! 」
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