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第112話

シンガポール ハイ 8 普通に杏果を起こせたらしい。目をクリクリさせながら杏果がリビングに入ってきた。 「 おはようございます!わっ!すごい部屋。庭がついてる、ここ3階?なのに」 玄関ホールの前は吹抜のガーデンになっていて南国の眩しい光が、椰子の木や熱帯の肉厚な葉にこぼれ落ちビビッドな色の花が間を埋めている。 目の前はヨットハーバーその先には穏やかなブルーの海。 朝霞さんは杏果に何を飲むか聞いている。その言葉、耳に入ってる?そのくらい周りを探るのに忙しい杏果を見てると、まだまだ子どもなんだなと親らしい気分になる。 「 杏果君、お腹は? 」 再再度、朝霞さんに聞かれてやっと気がつく。 「 あっごめんなさい!お腹は、少し空いてるかも、でも、お水もらっていいですか? 」 「 水?ジュースも紅茶も、コーヒーでもなんでもあるよ 」 「 紅茶?見ていい? 」 「 そうか杏果君は紅茶を淹れるのがうまかったな 」 と俊が言うので、 「 ああ、桜が集めてたティーセットが沢山家にはあるから、それが気に入って自分で覚えたんだよ 」 と懐かしい話を出した途端、しまったと思った。桜の話なんか俊の前でするんじゃなかった。 「 大丈夫です、死んだ人にまで嫉妬はしませんよ 」 なんかとんでもない言われようだけど、迂闊な俺も悪かった。 「 ごめん 」 と一言謝ると、俊は気にしないと手を振った。 「 今日はホテルに移動します。荷物はコンシェルジュに預けておけば運んでくれるので、俺たちは昼飯食べに行きましょう。地下鉄でぶらぶらと楽しいですよ 」 「 え?地下鉄? 」 紅茶の缶を物色しながら、今度はしっかり話を聞いていた杏果が加わる。 「 そう、シンガポールは小さい町だから地下鉄で移動するのも早いし 」 「 地下鉄、楽しみ……ヒロシさんこれ見て、この紅茶セカンドフラッシュのダージリン。水出しのアイスティーにしたいけどそんなに時間はないよね 」 と最後は独り言を言いながら慣れた手つきで紅茶を淹れる杏果を隣で朝霞さんが惚れ惚れしてるような顔で見ている。 「 杏果ちゃんってすごいね、お茶のことわかるの? 」 「 ダージリンは好きだから、専門店で買うんです、ほら色がファーストとセカンドでは違うから、香りもね 」 妙なところが大人な子だよな。

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