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第129話
シンガポール ハイ 26
塞がれた手を剥がそうとアンドレイの腕に爪を立てる。血が出るほど強く爪で皮膚を突くと、やっと腕の力が緩んだ。
その隙に俺は彼を突き飛ばして埠頭の方に走る。
人混みをかき分け、ごめんなさいとsorryを繰り返して、その先に俊の姿を見たとき、ホッとして足が止まった。
俊が周りを見回しながら俺を見つける。ホッとした表情で近づいてくるうちにその視線が剣呑とした。
ドンっと肩に腕を回されて抱きしめられ唇に濡れたものが押し付けられる。
あ!と思う間も無く目の前にはアンドレイの弧を描いた唇があった。
キスされた!
"ゴチソウサマ" merci pour le repas
異国語で耳もとに囁き、アンドレイは踵を返して人混みの中に去っていった。
人前でそれも俊の目の前で起こったことに気持ちのついていかない俺の腕を取り、
「 大丈夫?今のことは誰も見ちゃいない、行こう 」
と言う俊のあまりにも普通な態度に
「 なんで、そんなに、平気な…… 」
と言葉を吐きかけ気がついた。平気なわけはない、こんな所で怒りを露わにしたくないだけなんだ。
「 本当にごめん、気をつけろって言われてたのに」と俯く俺の肩を軽くて叩いて、
「 行こう、もう船が着く、杏果ちゃん達も待ってるから 」
「 ボブさんは? 」
「 あんなの知るか!自分のペットに鎖もつけられないようなやつ 」
そっか、俺は犬に手を噛まれたんだ。そう思うことにしよう。
アンドレイは犬。
思わず笑った俺に、
俊が消毒!と称して唇に軽くキスをくれた。
レトロで小さなボートが埠頭に近づいてくるのが見えた。
そうだ夜はこれから。
ワクワクしながら船を待つ。
「 楽しまなきゃ 」と言いながら俊にお返しのキスをした。
旅は男を子どもに帰すんだ。
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