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第130話
シンガポール ハイ 27
「 ボブさん達、深夜の便で帰るから、今からカジノで時間をつぶすって 」
そうボブさんは説明したらしい。
杏果が残念そうに言うと、
俊はもちろん朝霞さんまでホッとしていた。
そう犬に噛まれた事はここに置いて行こう。
小さなレトロな雰囲気の船が埠頭に横付けされた。昔、荷物の運搬に使われていたバンボートの形をした船に乗り込む。
船は川を40分ほどかけてゆっくりと下るらしい。
左右にある席の片側に俊と並んで座ると、船はゆっくりと桟橋を離れて行く。
周りはプリズムのようなさざめく灯りの下、人々が夜の街を楽しんでいる。
古風な建物がライトアップされている、昼間に威容を誇る高層ビルとの対比が面白い。
遊園地みたいな所で大きなブランコに乗ってる人が見える。
その歓声が風に乗ってここまで聞こえてくるようだ。
「 ずっと乗っていたい 」
そう言うと、頷いた俊がしっかりと俺の肩に手を回してきた。その腕に寄りかかるように頬を寄せる。
こんなこと東京では絶対にしないけど、かなり俺もネジが緩んでる。
1つ前の席に座った杏果は
夜景にくぎ付けになっている。
「 もっと下るとホテルが毎日行っている光のショーが船上から見れますよ 」
朝霞さんが後ろを振り向いて教えてくれる。
川面の異国の夜を楽しんでいると、やがて川幅が広くなり、
ホテルのショーが始まっていた。
高層のホテル全体がライトアップされて、屋上からは夜空に向かって色とりどりのレーザービームが照射されている。
船の乗客も歓声を上げて、船の中は一気に盛り上がってきた。
幸せな時間、過ごしてきた日々の先に、こんな時を過ごせるなんて、思ってなかった。
甘い時間に酔いしれて船を降りる頃には、俺は俊とひとつになりたくて堪らなかった。
欲しい、こんなにもこの男が。
船着場で降りモールを早足で行く。
身体は熱くて熱くて、どうしようもない……
賑わうフロントも、異邦人に囲まれるエレベーターも、静かな宿泊階の廊下も、全部障害に感じるほど、隣の男をが欲しい。
部屋のドアが閉まる音と俺の中の欲望の弾ける音が重なった。
嫉妬して、酷くして、俺しかダメだと言ってくれ……焦れるほど長く永く肌が疼くもつれるように下半身の布を剥ぎ、美しい夜景の前に緩く勃ちあがる雄はお前のものだよ。
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