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第134話
シンガポール ハイ その31
ふっと目が覚めた静かなホテルの部屋に、廊下でドアを開けるわずかな音が聞こえてきた。部屋のシャワーの音がその後に聞こえてくる。
自分の部屋のシャワーの音よりドアの音の方が先に聞こえるのは閉じた空間にいることを身体が理解しているからだろうか。
でもシャワーの音って心地よい。
心を許してるだれかが同じ部屋にいる感じがする。
ここまで考えて、すっかり忘れていた記憶が蘇る。
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あなたのシャワーの音、
寝入りばなに聞こえると気になって、悪いけどわたし和室で寝るわね。
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と言われた記憶。
嫌な記憶、なんでこんなこと思い出したんだろう。
「 起きたんですか?すみません、シャワーうるさかった? 」
「あ、ぜんぜん違うから、うるさくなんかないよ 」
そういう言葉におもわず力が入った。
ふーんと俺を見ながら
「 腹減ったな、朝飯行きましょうか、
それともヒロシさんも浴びます? 」
そういえばあの、後、俺は俊にシャワールームまで連れていかれ……
慌てて夜更けの記憶を封印する。
「 いや、俺はいいよ、飯に行こう 」
俊はもう先に朝霞さんに連絡をしたらしく、杏果のところは2人で朝からプールにいたらしく、今シャワーを浴びてるということなのでレストランで会おうということになっているらしい。
一階まで降りると相変わらずアーケードのようなフロント回りは派手なスタイルの人が賑やかで、本当に観光客が多い。
朝食はバイキング形式で席に案内されながらあまりの料理の豊富さに、
「すごいビュッフェの数ですね、
人も多いけど料理も多いし」
「なんでもありそう、杏果なら迷いまくるな 」
とすわってコーヒーを注文しながら喋っていると、
やってきた杏果と朝霞さんは席にすわる間もなく、ビュッフェの方に突進していった。
俊と俺も意外に減ってるお腹を満たすために皿を持ってフラフラする仲間になった。
決めるのが早いせいか、俊は山盛りにした皿を持って先に言ってますよと席の方へ行く。ひとしきり食べたいものを取った俺は、フルーツのコンポートを見ながら、取ろうかどうしようかと迷っていた。
ふいに肩を抱かれた。
危ない、
色々載ってる皿を持ってるのに、と横を見ると
「 あ!アンドレイ、
なんで…… 」
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