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第135話
シンガポール ハイ 32
肩にアンドレイの腕をまき付けて帰ってきた俺に、一同は驚く。
「 なんで?飛行機どうしたの? 」
と杏果が日本語で聞くと
微かに首を傾けたアンドレイは
俺の腰に腕を回して、
「 Je suis tombe en amour avec vous.
恋に落ちちゃった 」
と耳元で囁くと俺の唇に軽くキスを落として、なんと俺たちのテーブルに腰をおろした。なんて言う意味?驚く朝霞さんと忌々しげな俊の視線が痛い。
朝霞さんがアンドレイにどうしてここにいるのか英語で聞く。英語なら少しはわかる。
『 ぼくは帰るって決めてない。ボブは仕事があって帰るから空港まで付き合っただけ 』
『 そうなんだ、いつまでいるの? 』
と朝霞さんが訊ねると、
俺の眼をじっと見つめて、
「 Tu me fais craquer.
あなたに夢中だよ 」
『君たちこそ、いつまでいるの?僕は詳しいから案内するよ』
というと、それまで黙っていた俊が
ノーサンキューだとはっきり告げる。
すっと冷えた雰囲気に杏果が慌てたように
『 この、このジャム美味しい!
なんだろうね 』
『 それはカヤジャムだよ 』
と朝霞さんが応えると、アンドレイが
『 カヤジャムはラッフルズのものが最高に美味しいよ、お土産にもなるから買ってみたら? 』
と杏果に話しかける。
『 え、ラッフルズって?あの有名なホテル? 』
『 そう、アフタヌーンティーでも有名だけど、昔の作家でサマセット モームという人が東洋の貴婦人と名付けて愛したホテルだよ。
そしてモームにはゲイだという疑惑もあってね 』
『 え?そうなの? 』
杏果が話に乗ってくるとあれよあれよと言う間にラッフルズホテルに行くことが決まった。
盛大に顔をしかめた俊と
勝ち誇ったようなアンドレイと、
様子のわからないままアンドレイに乗せられた、のはわかった朝霞さんと杏果の戸惑った顔に挟まれ、この先を考えた俺は、日本に帰りたくなった。
アンドレイ、黙っていれば貴公子のような顔立ちにエキゾチックな面差し、本当に身体もスタイル良く申し分のない人なのに、
残念なことだけが思い出になっちゃうな……
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ご注意、フランス語はぐぐる程度の低レベルの知識。
そして英語は『 日本語 』に変えて話します。狡いよねw
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