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第137話

シンガポール ハイ 34 教頭先生には前の日にも3年の講習で会ったのに、家族旅行ですと伝えた理由はわかってる。 それはモヤモヤした俺の気持ちの問題。 俊だって、なんで杏果を連れてきたのか俺はわかってる。 高校の教員だものね、男の恋人と2人きりで旅行なんて体裁繕えないこと心配してたんだよな。 杏果、ごめん、お前を利用してる。 こんな気持ち良くないな。 案の定不安定になった気持ちを利用する者がいた。 セントーサ島でタクシーに乗り込み、そのままラッフルズホテルに向かう。 『 日本からか? 』と尋ねられ朝霞さんが、ドライバーと会話を始めた。 シンガポールは車の渋滞緩和のために車の取得費用が高額で所有制限されて、車自体も高いし大変らしい。 「 この狭い国では必要なことなんだね 」 と言うと、 「 シンガポールは規制が色々厳しくて、アパートのベランダに水たまりがを作っても罰せられます。マラリアとか蚊の媒介する伝染病予防なんでしょうけど」 と朝霞さんが答える。 「 報道も統制されてるし、観光客のイメージと違いある意味あまり自由奔放ではないね 」 俊のそんな言葉を聞きながら走るタクシーから街並みを眺めると、どこの国でも見た通りではないんだな人間と一緒か、と考えさせられた。 ラッフルズホテルの車寄せにタクシーが着く。泊まっているホテルとは全く違う、植民地風の建物。コロニアルホテルの外観。 煉瓦色の屋根、真っ白な壁、床はベージュと白のマーブル模様の石。 サマセット-モーム 、キプリング、有名な作家がここに滞在して書いた当時の様子はどうだったんだろう。 インドスタイルのドアマン、 異国情緒あふれる調度、 揺れる風にあふれる陽射しが中庭には溢れてある。 中に入れば石の床が火照った身体に冷ややかな空気を纏わせる。 薄暗い室内に香る南国の花 全てが旅をしてきたと感じさせる。 しばらく眺めていたのか、周りを見ると3人ともいない。 あっそうか杏果と朝霞さんは、ハイティーに並ぶ人たちを見てレストランの方に行ったんだった。 俊は? 俊を探す俺の横にスッと寄ってきた人影があった。 振り向くとアンドレイが立っていた。 真っ直ぐ前を向き、身体に自然なラインを描きだすその立ち姿は、 本当に綺麗な男だな……

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