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第138話
シンガポール ハイ 35
本当に綺麗な男、そんなことを思った俺の考えを見透かしたように、フンワリと美しい口元が弧を描く。
こんな笑い方は異国人だからできるんだろうな、とまたぼんやり見つめる。
こっちと手を引かれると抵抗なく付いていけるのはなんでだろう?
困難な時代を通り越してきたホテルの雰囲気に呑まれてるのかもしれない。
遠い国からやってきた旅人が、オアシスを見つけて暫し疲れを休めるような、流れに身を置いてみるような気分に俺はなっている。
彼はオレを連れてどこに行くんだろう?
石の通路がいつのまにか木の通路に変わっている。
涼しい陽射しを避けた通路を暫く歩くと、深い木の色の扉の前に立った。
ここは?と眼で問うと、何も答えずに
扉を開ける彼。
『 大丈夫、ここでは冷たいものを飲むだけ 』
と言いながらまた手を引いて部屋に入る。
前の日にあんなことをされてるのになぜ警戒しないんだろう?
俺の思考はセントーサ島で下降に入ったようだった。
どうとでもなるだろう、どうせ、流させるのは楽でいい、
こんなマイナスな思考に埋め尽くされながら、彼に出された冷たいジュースを飲む。
喉乾いてたんだな
一気に飲むと彼が笑った。
『 なんのジュース? 』
と聞くと、
『 ミックスだよ 』
と彼は簡単に話を終わらせた。
暫く2人で青い芝生が滑らかに刈られている中庭を眺めた。
シンガポールに来て初めて静寂を感じた。息がつけた。
2人でただぼんやりと過ごす時間はどのくらいだったのだろう?
気がつくと俺のスマフォが着信を知らせていた。
俊からだ。
その時、どうして、残念だ、と思ったんだろう?でも、もう少しこの静寂を、と思ったことは確かだった。
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