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第147話

ロックの日に あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その1 『 14年ぶりか?』 『 いや、あいつが18の時に1回向こうで会ってる 』 『 10年ぶりか 』 『 ああ、話をするのには長すぎたよ、お互い避けていた時間が な 』 先日の菅山との会話を思い出すと、いたたまれない気持ちになる。 会いたい、話したい、 どんな気持ちで日本に戻ってきたのか…… 最後の別れは泥沼の中でもがくようだった…… それは、いっときは深く愛し合った俺と香織が、あそこまでお互いを傷つけ合うとは想像だにしていなかった。 そして、ジュンヤにいたっては、一番難しい時期にこちらの都合で放り出してしまい彼の気持ちをいったんは受け止めてやって、その先に大人の俺が対処すべきだったのに、弱気だった俺はただ空港にも見送りに行かず逃げただけだった。 割井君の言う通り、死んだら話はできない。 そんな思いで今夜こそあの店に行ってみようと、車を走らせる。 今夜はアルコールは抜きにしてジュンヤを捕まえよう。 荻窪の辺りは駐車場選びに苦労するのでジャズライブの終わる時間よりだいぶ早く事務所を出た。 案の定少ない駐車場は満車が多く、店に着いたのは、あと一曲というところだった。 そこそこ混んでいる店内をスタッフに案内されて入り口に近い方の席に座ると、 モカを注文する。そして、青山君に演奏の後少し話がしたいと伝えて欲しいと頼むと、快く受けてくれた。 よく鍛えられてるな、一ヶ月ほど前に一回だけ来た俺の顔を覚えていたらしい。 ステージでは ソニー ロリンズのオリジナル曲 St.Thomasが始まっていた。 元が童謡だったという曲を吹くジュンヤの演奏が今夜はえらく切なく聞こえる。 香りの良いコーヒーも今夜はあまり味がしない。 目をつぶって演奏に聴き入ると、 暗闇の中に何から話したら良いのか、何も考えずに来た事に慌てている自分がいた。 拍手が湧き起こり演奏が終わった事がわかる。 しばらくメンバーと談笑していたジュンヤがステージを降りる。スタッフが寄って行って俺の伝言を伝えたのか、ジュンヤが胡乱げな眼差しでこちらを見た。 頷いて一旦店の奥に下がったジュンヤが 俺の前に現れたのはそれから10分ほど経ってからだった。 「 こんばんは、よくいらしてくださいました、青木さん 」 酷く他人行儀な口調で喋るジュンヤの眼は全く笑ってはいなかった

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