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第148話

ロックの日に あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その2 「 どこに行く 」 二人になった途端ジュンヤの丁寧な言葉は消え去った。 「 お前の家はどこなんだ? 」 「 質問に質問ではぐらかす、 変わんないね、あなたは 」 「 変わらない……か それは10年前か?もっと前? 」 ため息を一つついたジュンヤは、 「 俺は今、貸アパート暮らしだ 中野まで送ってくれ 」 と会話を断ち切った。 荻窪から中野まではかかっても20分。その間車の中に聞こえてくる音は小さなエンジン音とタイヤが道路を鳴らす音。 街道の大通りに出て、少し走ったところ、ある一軒の店の前で車を止めた。 「 駐車場に車を入れてくる。その店に入っててくれ 」 最初から話がしたいと伝えたためか抵抗もせずジュンヤは車を降りた。 店に入ると、カウンターから離れた4人がけの椅子に座り通りをぼんやりと見ている。 「 横顔は香織にそっくりだな 」 ふっと思った気持ちは声に出ていた。 「 いやなことを言うんだな 」 たわんだ表情も近くで見ることができるなら、俺には幸福なのかもな。 「 すまん 」 と言うと、またジュンヤの視線は通りの方に流れていった。 ウエイターが近づいてくる。 この店は菅山と何回か入ったことのある物静かな夜中過ぎまで営業するパブ。 「 腹は? 」 「 減ってない、ステージ後に賄いの軽食をつまむから」 でもウエイターにはちゃんと目を合わせて 「 バドワイザーを 」 と頼んだ。単に俺には冷たいだけで、常識は持ち合わせてるってことか。 「 そうか、俺にはノンアルのビールを頼む 」 頭を軽く下げてウエイターが店の奥に戻る。 カウンターに何組かカップルが居るが静かに音楽が流れる店内はお互いの話は聞こえない。 「 それで、なに?話って 」 聞いたことは全てを拒否するけど、そんなジュンヤの口調だった。 ウエイターが二本のビールの小瓶を持ってくるのは早かった。 乾杯もなにもなくジュンヤはそのまま口をつけた。 ノンアルのビールを冷やしてある円筒型のグラスに注ぐと細かい泡が立つ。運転するときには仕方がないと諦めてはいるが最近では飲める味にはなってきた。 「 一緒に住まないか? 」 俺の一言に驚いてジュンヤはむせ込んだ。

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