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第152話
あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その6
自分も周囲も騙していたあの頃己の気持ちまで気づけなくなっていた俺。
ただ心に焼き付いているのはジュンヤを離したくないという降って湧いたような感情に慄いた自分だった。
年末は予定外の講演や視察の客人の接待で、全く個人的な時間を持つ事は不可能だった。
いつのまにか年も開け松の内も過ぎたが、受験シーズンがたけなわを迎え社内も余裕のある雰囲気は皆無だった。
その夜遅くに菅山から珍しく連絡があった。応答するなり
「 おい、知ってるのか?
ジュンヤ君病院にいるらしいぞ 」
「 え?どういう事だ?
病気か事故か? 」
「 病気の末の事故らしい 」
「 なんだ、それは 」
「 俺もさっき聞いた話で詳しくはわからんが 」
「 誰にいつどこで聞いたって? 」
俺は高ぶってくる声を抑えてなるべく冷静に問い返した。
「 なんだよ、冷たいやつだな、
具合とかの心配が先じゃないのか 」
「 菅山、、教えてくれ、誰にいつ、どこで聞いたんだ? 」
少し沈黙があったが、
「 あのjazzのライブの店でさっき、
バイトで入ってる俺の教え子から聞いたんだよ。病院も聞いたぞ、行くか?
と言っても、もう面会の時間は終わってるな 」
その後、あらかたの様子を菅山から聞き出して次の日の予定を確認した。
午後からなら少し空くか……
素直じゃない自分にも呆れるが本当は今でも顔を見に行きたい。
高熱でふらついた所を転んだなんて、アホな理由……本当だろうか?
とにかく明日、病院に行けばわかることだと気持ちを切り替えて、似たような内容の打ち合わせ続きで記憶にも残らない沢山の言葉の名残をシャワーで洗い流すことにした。
午前中の予定をこなし、午後は繰り延べできるものは繰り延べし強引に時間を開けた俺は教えられた病院に向かった。
受付で病室を確認しエレベーターで上がる。あまり大きくない病院のせいか病室の話が筒抜けになっている。
目指した部屋は廊下まで中のやりとりが聞こえてきていた。
「 ごめん、ごめんなさい 」
「 なんとか言ってよ 」
所々聞こえる声は1人の男の声で返事をしているのかしていないのか、
会話の相手の声は聞こえない。
それにしてもこの部屋ジュンヤの病室だと思うが、入っていいのか?
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