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第153話
あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その7
廊下で迷っていても仕方ないか、と半分ほど開けはなした引戸を軽くノックする。その音に明らかに驚いた中の雰囲気が伝わってきた。
中はわりと広い部屋で窓からは昼の光がよく届いていた。
男が2人、男、だよな……
ジュンヤと驚いて固まってるもう1人は
えらく可愛い顔をしていて性別がわかりにくいタイプの子だ。
「 よお 」
と俺にしてはこの場面では無難だと思う声がけをする。睨むように俺を見つめているジュンヤに代わりその子が答えた。
「 誰? 」
俺からの返事を言わさない間でジュンヤが答える。
「 ちょっとした知り合いだ。
昔の 」
ジロジロ遠慮もなく俺を見るその青年は、それ以上の説明を誰もする気がないのがわかったらしく、また先ほどの廊下に聞こえてきた同じセリフを繰り返した。
「 ごめん、ごめんなさい。
だから一緒に家に帰ろう 」
家?一緒にって?
疑問に思った俺が片方の眉をあげたの見たジュンヤは、
「とにかく、今日は自分の家に帰れ、
来週連絡するから話はその時に 」
ときっぱり言い切ってしぶるその青年を病室から追い出した。口出すこともないのでそのまま傍観していると
「 あんたも帰れ 」
と身もふたもない言われよう。改めてよく見たらジュンヤは普通のセーターとジーパンを履いている。
「 退院なのか? 」
「 そう、今から 」
「 身体は? 」
「 ああ、風邪で熱出してるところ、よろけて階段から落ちたんだ。
かすり傷なのに頭を打ってるからって二晩も泊められた 」
階段から落ちた?へぇ、落ちたは自分でという意味で、さっきの謝ってたあの青年の言葉はどこに繋がるんだ?
頭を、打ったのか……よく見ると右側の耳の上にテープが見える。
思わずにジュンヤの方に手をやると、簡単に目の前ではたき落とされた。
会計までついていくと露骨に嫌な顔をして、
「 なんでまだいるんだよ、もう、いいから、帰れ 」
と言って俺を睨んだジュンヤの目線は俺を通り越し背後を見てしまったというような顔をした。
その視線の先には、堂々とした体躯の若い金髪の青年が立っていた。
この顔は覚えている……
10年前、あの頃のジュンヤの恋人だった男だ。俺の方を見向きもせずにジュンヤに近づいたその男は場所も構わずその身体を抱きしめた。
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